学生バイトにしわ寄せされる社会の強烈な矛盾 コロナ禍で露呈、高すぎる学費と奨学金頼み
4月分のシフトがまったくなくなった――。東京都内の大学に通う20代女性のAさんは、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアルバイトをしていた居酒屋でシフトに入れなくなり、毎月8万円ほどの収入が途絶えた。休業手当はいっさいない。
この8万円はAさんにとって、単なる小遣いではない。Aさんの家は母子家庭で、家計は母親が支えている。学費は母親が支払ってくれているが、交通費や教材代などはアルバイト代から捻出していた。3年生になり就職活動を間近に控えるが、生活への不安は消えない。
Aさんが働く個人経営の居酒屋の場合、従業員への休業手当を国が助成する「雇用調整助成金」を申請すれば、新型コロナウイルス下の特例で10割が補填される。しかし、店は法律で定められた支払い義務の6割の手当も支払っていない。Aさんは、「首都圏学生ユニオン」に加盟し、休業中の補償を求めて団体交渉を申し入れたが、店側はAさんが3カ月契約の有期雇用で、「4月末に契約が切れるから、支払う義務はない」などと主張している。
5人に1人が退学を検討
『週刊東洋経済』は6月22日発売号で、「コロナ雇用崩壊」を特集。外出自粛で弱者にシワ寄せが及んでいる現実を、多角的に描いている。新型コロナの感染拡大は、アルバイト収入を生活の糧にする学生の困窮を明らかにした。
「仕送りなしで、家賃と生活費はパチンコ店と飲食店のアルバイトで稼いでいるが、パチンコ店は4月からシフトがゼロ。休業手当はないと言われた」「飲食店のシフトを減らされ月収が5万円ほど減るが、休業手当は出ない。母子家庭でスポーツインストラクターの母親の収入も半減した」
4月に行われた学生ユニオンの電話相談には、こうした切実な声が寄せられている。
生活の糧にしていたアルバイト収入が失われ、退学を考える学生もいる。学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が4月に1200 人を対象に行った調査では、学生の5人に1人が退学を検討している実態がわかった。こうした現状を政府も問題視。新型コロナの感染拡大の影響で困窮する学生に、10万円(住民税非課税世帯は20万円)を給付する支援策を決めた。
顕在化した学生の困窮は、今始まったことではない。背景には2つの問題がある。
1つは、学費の高騰だ。1975年の国立大学の年間授業料は3万6000円。授業料は値上がりを続け、2020年の国立大学の標準額は53万5800円だ。この国が示す標準額よりも、授業料を高く設定する大学もある。2004年度に国立大学が独立法人化されて以降、国から大学への助成金である「運営費交付金」が減り続け、その結果、授業料の値上がりは相次いでいる。
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