学生バイトにしわ寄せされる社会の強烈な矛盾 コロナ禍で露呈、高すぎる学費と奨学金頼み

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Bさんが加入する「ブラックバイトユニオン」の渡辺寛人代表は、「相談の半数は、学生が重要な労働力として組み込まれる飲食業・小売り、次いで塾や予備校が多い。収入減は10万円の給付金では補えない。学費の減免や給付型奨学金を拡大すべきだ」と話す。

学生への給付金は43万人と限られ、国策で急増している留学生のみに成績条件をつけている。同じ困窮度であっても、枠がある限りは窓口となる大学に選別が強いられる。

生活保護も学生は対象外

政府は第2次補正予算で、大学が独自に行う授業料免除の一部を補助する支援策を決めた。しかし、今、生活難に陥る学生が継続的に収入を得る方法は、現行制度では日本学生支援機構の奨学金しかない。奨学金制度に詳しい岩重佳治弁護士は、「どの制度も親の収入で判断し、『学生個人』が基礎になっていない」と問題視する。

機構が支援策とする家計急変による奨学金は、親の収入の急変に適用され、学生本人の収入減には適用されない。「スピード感を持って救済するには、今ある制度の運用を改善するしかない。家計急変による奨学金が利用できないケースも多いことが予想されるため、広く利用可能な貸与型奨学金の申し込み期限を通年に延長し、上限金額を引き上げるべきだ」(岩重弁護士)。

最後のセーフティーネットである生活保護も、大学生は除外される。大学生がいる家庭は「稼働能力を活用していない」とみなされ、生活保護を受けながら大学に通うことは認められていないからだ。

新型コロナの影響で、生活保護基準を下回る家計状態になっても、大学を辞めなければ生活保護を申請できないという不合理に陥る。「はしごを外され働けない状態になった学生には、特例的に生活保護を認めるべきだ」(岩重弁護士)。

前述したように学生の困窮の根底にあるのは、大学などの高等教育の私費負担の重さだ。政府は少子化対策の1つとして教育の無償化を進めてきたが、2020年から始まった給付型の奨学金は対象がごく一部に限られ、「無償化とは名ばかりの制度だ」(前出の大内教授)。

いまだに親の学費負担が軽減されないゆえ、子育て世代の不安は解消されない。6月5日に発表された厚労省の人口動態統計によると、日本の出生率は4年連続で低下し、政府の想定を上回るペースで少子化が進んでいる。

新型コロナ下の大学生の窮状は、日本で高等教育を受けるために、一定数の学生がいかにぎりぎりの生活を強いられているかをあぶり出した。学生が親から独立し、借金を負わずに教育を受けられる――。こうした未来への投資は、高いとはいえないはずだ。

『週刊東洋経済』6月27日号(6月22日発売)の特集は「コロナ雇用崩壊」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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