「日本へのメッセージ--グーグル、若者、メディア、ベンチャー精神について」梅田望夫(前編)
SNSは「Web2.0」と呼べるのか?
--梅田さんは、「Web2.0」の定義を、「不特定多数無限大を信用するか否か」「あちら側でサービスを行うか、こちら側でサービスを行うか」の2つの軸で行っていましたが、日米に「Web2.0」と呼べる企業はありますか。
あると思いますよ。国民全体というか、コンシューマー事業としてはあると思いますよ。ところが、いったん日本の組織がWeb2.0をどう考えたらいいかといった瞬間に、そこは結構齟齬をきたすでしょうね。やっぱり開放性というのが、いろんな意味での、Web2.0の基本だから。情報は占有するのではなくて共有するとか、クローズではなくオープンとか、全部そういうキーワードで言えると思うけど、やっぱりそこは難しいでしょうね。それは日本に限らない。アメリカも大企業は同じで、どこでも共通に抱えるところ。日本の世論みたいなものは、やっぱり日本の組織の論理みたいなものが、色濃く反映される傾向にあるかもしれない。だから、Web2.0的なもののインパクトが大きくなったときに、「これはけしからん、これはいいものでない」となる可能性はあるな。
--日本で言うと、Web2.0の旗手はどの会社ですか。
ミクシィが実績的には一番大きいと思う。ただね、Web2.0というのも厳密な定義があるわけではないんですけど、「不特定多数の人たちが関わって、その人たちがつくるコンテンツでうんぬん」という意味では、SNSは2.0の代表なんだけど、ミクシィなりグリーなりSNSって、閉じた擬似ネット空間なんだよね。やっぱり、インターネット全体の開放性というものと検索エンジンの関係というのが、2.0の骨格にあるんだけど、SNSのコンテンツは検索エンジンにひっかからないんだよね。だから、SNSっていうのは、2.0完全という感じのオープン性ではない。たとえば、ミクシィで書いた日記が検索エンジンを通じて誰かに届くことはないわけですよ。同じ不特定多数でも、その自分たちが誰かの紹介で友達でというコミュニティ。ただ、300万人にもなって、その中で検索できるんだから、ほとんど擬似空間ではあるんだけど、普通のブログと違って、完全なネット空間で、検索エンジンに拾われて、まったく新しい人との出会いがあるというのは、SNSにはないから。その部分が少しひっかかるんですよ。ミクシィを2.0の代表と言うにはね。だけど、実績からいうとミクシィなんじゃないですか。
--アメリカだと、マイスペ−スとかユーチューブとかそのあたりですか。
ユーチューブ(YouTube)はそうだよね。ただ出てきたばかりだから代表とは言えるかな。マイスペース(MySpace)とかフェイスブック(Facebook)とか、そこらへんが面白いですよね、SNSでは。ただそこは、ミクシィと同じ意味でややクローズな感がある。だから、アメリカだと、ヤフーが買収したフリッカー(Flickr)だとか、デリシャス(del.icio.us)とか、最近では、リヤ(Riya)って会社もある。ゲーム絡みでいうとセカンドライフをやってるリンデンラボ(Linden Lab)、ここら辺が2.0系で面白いところですね。
まだ戦いは、始まったばかり
--梅田さんは本の中で、「グーグルはエリート主義であり、不特定多数無限大に対して信頼は置いていない。その意味で純粋にWeb2.0の企業というわけではない」と書かれていました。もし、グーグルを超える企業が現れるとすれば、それは真の意味でWeb2.0の定義に当てはまる企業であると思われていますか。
僕はグーグル自身があんまり2.0の会社と思わないんですけど、グーグルとWeb2.0の企業の一番の違いって、グーグルっていうのは、テクノロジーをベースにしたプラットフォームの会社なんですね。テクノロジーを開発して、ネット上でオープンになっている情報を全部自分のところに持ってきて、整理して、その全体を検索エンジンでとかいろんなことで提供しますということですよ。
ミクシィとかはてなとか、彼らはユーザーという概念があるわけだ。これは無償であれ、有償であれ、登録ユーザーって概念があるわけだ。フェイスブックもそうだし、みんなそうですよ。自分たちが場をつくって、そこに人が来てくれる。そうすると、その人たちが自由に日記を書いたり、写真を上げたりとか、そういうことをやってくれる、そのことによってサイトの価値が高まって、広告の価値が上がるということなんですけれど、もともと、何十万人、何百万人というユーザーが貢献してくれているものじゃない。そうすると、そんなにそこからべらぼうな利益が出るものではないっていうか。構造的に。グーグルというのは、そういうユーザーというものから遠くて、全部のインフラだから。2.0の会社と呼ばれたくない人がいるのは、それは2.0は儲からないものという感じがあるから、そういう風に言っているのかもしれない。
ただ、グーグルがやったのはまだテキスト情報だけですからね。もちろんグーグルは、写真も映像もやりますって言っているけれども、検索エンジンで成功したから、隣も全部成功できるという保障はまったくないわけで。だから、グーグルで大儲けをした2つのベンチャーキャピタル(VC)、クライナーパーキンスもセコイアも、グーグルのボードメンバーでもあるわけだけど、グーグルがここもやりますよと言っているビデオのスペースのYouTubeは、セコイアがいくらでも金を入れてつくろうとしているし、ポッドキャスティングの一番面白い会社は、クライナーが金を出している。
だから結局、グーグルっていうのは新しい道を開いたと。検索エンジンだけでも、それに付随するサービスをいろいろやっていくことで、大変な事業をつくるであろうし、これからも10年は君臨するだろうけども、ビデオの世界とか、映像、写真、音楽、こういうところは、まったく違う技術でまったく違う論理で、ビジネスモデルで、今のテレビとか、ラジオとかメディアを代替する可能性はあるよね。戦いはぜんぜん終わってない。始まったばかり。