「日本へのメッセージ--グーグル、若者、メディア、ベンチャー精神について」梅田望夫(前編)

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「日本へのメッセージ--グーグル、若者、メディア、ベンチャー精神について」梅田望夫(前編)

グーグル、Web2.0、オープンソースなど、ウェブ世界に起きている新たな潮流を描き、ベストセラーとなった『ウェブ進化論』(ちくま新書)。その著者である梅田望夫氏に話しを聞くため、氏がコンサルティング会社を構えるシリコンバレーのオフィスを訪ねた。(6月19日発売号の『週刊東洋経済』:「Web2.0」特集の特別版)

「僕がグーグルを礼賛する理由」

--『ウェブ進化論』の読者からは、梅田さんのグーグル、ネットに対する見方がオプティミスティック(楽観的)すぎるのではないかという意見も多く聞かれましたが、その点についてはどうお考えですか。

それはね、いくつか理由があって。そういう風に書こうと思ったからそういう本になっているんだけど。まず、グーグルについては、問題点の提起をするよりも先に、この達成の度合いについてお互い理解しよう、そのあとに、問題点なりなんなりを議論しましょう、というのが僕の立場で。

つまり日本というのは、グーグルが2004年に株式公開しても、グーグルについてきちんと取り上げて、この会社がどれだけすごいことをしているかを、ちゃんと理解して伝えようとした人は誰もいなかった。要するに、ずっと無視してきたわけだ。それで、僕の本が出て、佐々木俊尚さんの本(『グーグル』(文春新書))が出て、グーグルうんぬんということになってきて、じゃあ最初に何をしたかというと、ネガティブなことを言い出したわけだ、いきなり。「グーグルがすごかった」と言う期間はほとんどなしで、グーグル八分だったり、問題点の指摘ということになった。大体それは想像がついていたから、批判されることも承知で、「グーグルが何をやったのか」という達成についてきちんと書くというのが僕の立場。確信犯的にグーグルの達成とポジティブな面を表現したということですね。それが一つ。

もう一つ、ちゃんと読んで欲しかったと思うのは、すごくわかりやすいグーグル批判をする人たちなんだけどね、僕は、あとがきの中で「これから難しい問題が起きてくる。この難しい問題というのは、グーグルの抱えている正の部分、負の部分も含まれるけれど、もっとネット全体として、善悪もすべて飲み込んだ世界なんだから、これからネットの世界に新しい秩序をつくっていくには大変な難題がこれからあります」というふうにきちんと書いているわけですよ。

若い連中をなぜ奨励しないのか

その難題を乗り切るという行為をする人たちを出さなければならないでしょ。そのためにはオプティミズムで、その人たちを奨励しなければいけないでしょ、というのが僕の立場なんですよ。つまり、グーグルという、まったくゼロからあれだけのものをつくった存在に対して、すごいということを一切言わないで、メディアが「出てきたものを叩く」という姿勢でいるなら、誰もグーグルみたいなことをやってみようという人が出てこないじゃない。しかもメディアは、叩いていながら、「なぜ(日本には)グーグルが出ないんだ」と言っている。それはすごく大きな矛盾だと思う。つまり、グーグルが行った達成はすごいと一回はきちんと言って、仮にグーグルに問題があるのなら、10年先にグーグル以上の会社をつくるしかないじゃない。

グーグルが仮に脅威であるとか、問題があるなら、アメリカはどうするかというと、グーグルに競争して勝つ会社をつくらなければいけないね、ということになる。要するに、今の状況がよくないのなら、グーグルを引き摺り下ろす、競争によって、グーグルより優れた会社が出てくればいいという発想。そうすると、グーグルよりすごい会社をつくり出せるのは若い連中なんだから、彼らを奨励して、そこにお金を突っ込んで、新しいことをやろうとする人に頑張れと言わなければいけないよね。そのベースにあるのがオプティミズムなんですね。

そういうことを意識して、僕はオプティミズムということを言っていて、それが若い人たちにちゃんと伝わるから、彼らは「嬉しいな」と思ったり、この本を読んで励まされたり、「自分は何かやらなきゃ」と思ったりするわけ。日本のメディアは何をするかというと、ちょっと前までなんの興味もなかった、関心もない、特集もしない、理解しようともしなかった。ところが、誰かが何か「すごい」と言ったら、「すごい」っていう部分はすっとばしてさ、「ところでそんなすごいんだったら必ず問題あるよな」という姿勢で、問題のところにずっとフォーカスしてさ、問題のところばかり言うじゃない。そうすると、それを見ている人たちは、そんな大きなことをしようと思わないじゃない。

--それだけ、グーグルに対する期待が大きいんではないでしょうか。

いや、期待なんかしてないんですよ。できもしないことを偉そうに言うことが嫌いなんですよ。たとえば、グーグルは「われわれは邪悪なことをしない」と言っている。それに対する反応は、アメリカなら「若い連中が格好いいことを言っているな」くらいのものですよ。ところが日本では、「『われわれは邪悪なことをしない』と言っていながら、あの中国でやっていることはなんだ」という論調になるわけだ。実際は期待なんかしてない人が、ほんのちょっと齟齬をきたしたことに対して、ワーッと言ってしまう。がっがりしちゃうよね、ああいうのを聞くと。それはメディアだけじゃなくて。僕が1万件ぐらい読んでいるブログやSNSの書き込みの中にも、何パーセントかある。影のところにスポットライトを当ててはいけないわけではないけど、バランスを著しく欠いている意見というのがあると思いますね。よくわからないけど、日本だけかもしれないよ、こんなことが起きるのは。もし日本だけだとすると、結構深刻な問題だと思うな。

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