「キッチン南海」60年繁盛した背後にある仕掛け のれん分けで"拡大"、行列店の創業者が語る

✎ 1〜 ✎ 7 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

同店から独立開店したシェフは、約20人に及ぶという。店主の引退などですでに閉店した店も10軒近くあるが、のれん分け店からさらに独立した店を含めると、確認できているだけで現在20軒近くの“子店”や“孫店”が営業する。

神保町キッチン南海出身者の店(そこからの独立店も含む)
神保町キッチン南海(現料理長の新店が7月にオープン予定)、キッチン南海 上井草店、キッチン南海 高円寺店、キッチン南海 東池袋、キッチン南海 南池袋店、キッチン南海 早稲田店、キッチン南海 駒場店、キッチン南海 梅ヶ丘、キッチン南海 下北沢店、キッチン南海 両国店、キッチン南海 向ケ丘遊園店、キッチン南海 松本店、馬場南海(高田馬場)、キッチンニュー南海(西川口)、カレーの南海(祖師ケ谷大蔵)、キッチングリーン(祖師ケ谷大蔵)、キッチンヨッチ(江戸川橋)、キッチン台栄(御徒町)、きぬそば(末広町)
(注)2020年6月現在、上記は確認できている店のみで、ほかにも存在する可能性がある

高回転率可能にしたオーダーシステム

3つめの理由には、回転率のよさが挙げられる。前述の通り、多い時には席が30回転したというが、そうした驚異的な客さばきを可能にしているのが、独自のオーダーシステムだ。

まずは行列中の客にホール係がオーダーを聞いて回り、メニューごとに色分けされた札をケースに積んでいく。その後、ホール係は色札を厨房の前の台に並べ、シェフにオーダーを伝える。札の向きや並べ方で順番・何人連れかなどの情報もわかるようになっている。それを見た厨房のシェフたちは、客が着席してすぐに料理を出せるよう、連携をはかる。といっても作り置きはせず、カツは注文が入ってからパン粉をつけ、揚げ始める。

色札を使い注文をスタッフ間で共有することで、1日約500人のお客をさばく(写真:筆者撮影)

行列が行列を呼ぶ店でありながら、いざ並んでみると意外なほど早く食べられるという同店の機能的オペレーションは、こうして実現している。色札を使うスタイルは、創業時から続いているという。

そして4つめの理由が、雰囲気のよさだろう。店頭の看板や食品サンプル、店内の設えはレトロな趣で、懐かしさを感じさせる。しかし、ただノスタルジックなだけでなく、無骨な食器、長いコック帽をキリッとかぶるシェフ、ずらりと並ぶスパイス缶など、そこには機能美や上質さが同居している。ちょっとした“舞台”ではないが、そうしたどこか非日常的な空間で食事をすると、食べているものが特別なものに感じられる。

「料理は舌で感じるものと思いがちだけど、そうではありません。大切なのは脳なんです。脳にいかに刻み込むか。それができれば食べ物屋は絶対に成功するだろうし、私が商売で突き詰めようと思ったのも、まさにそこなんです。

たとえばラーメンを、冷めた後も美味しい美味しいとすすり続けるのは、舌の作用だけを考えたらありえない。脳に刷り込みがあるからこそ、美味しいと感じられる。そうした構造をいくつも利用しているのが、うちのカレーなんです。

だから、今は出前や持ち帰りは一切やっていません。できたてをこの店で食べるからこそ、100%美味しいと思ってもらえるわけで、持ち帰って食べたら絶対に味が変わってしまいます」(南山氏)

神保町キッチン南海から独立した店や、さらにそこから独立した店は、多かれ少なかれ同店の特徴や雰囲気を受け継いでいる。文芸評論家の福田和也氏は神保町キッチン南海を「文化財」と評したというが、のれんわけ店にも独立からすでに50年近く経った店があり、まさに文化財といった趣の店も少なくない。この先もそうした各店に足を運ぶことで、神保町キッチン南海のエキスのようなものを体感できるだろう。

田嶋 章博 ライター、編集者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たじま あきひろ / Akihiro Tajima

取材ライターとしてビジネス系記事やオウンドメディアの記事を、カレーライターとしてカレー関連記事を執筆。ポートフォリオサイトはこちら。ツイッターアカウントは「@tajimacho」

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事