スティーブ・ジョブズ、今だからこそ語る伝説 「あの日のジョブズは」彼の知られざる姿を描く

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ゲイツがTシャツならアルマーニのスーツで勝負だと、途中から熱く語るジョブス(撮影:小平 尚典)

どのカットも魅惑的である。写真はいずれも雄弁で、さまざまなことを語りかけてくる。この雄弁さはジョブズに特有なものだ。例えばビル・ゲイツやジェフ・ベゾスの写真には決定的に欠けている。少なくともぼくは、彼らの写真から何かを感じることはない。報道写真と同じで、ただビル・ゲイツをビル・ゲイツとして、ベゾスをベゾスとして認識するだけである。認証としての写真。その先に関心は向かわない。

ジョブズの写真は、その先にあるものを語りかけてくる。彼という人間のなかに内包された物語を。若くてはつらつとしたジョブズが写っている。決して激高しているわけではないが、内に秘めた熱いもの、強い意志を感じさせる。とくに目に力がある。力がありながら深く澄んで美しい。こうした印象は彼のどの写真にも感じられるものだ。何か繊細なものが写っている。激しさと同時に静けさが、強さとともに寂しさや悲しみが……そこに通奏低音のように流れている孤独を、ぼくの耳はどうしても聞き取ってしまう。

これほどにぎやかな人生はまれ

ジョブズのポートレートに深い陰影をつけている孤独。この孤独は、例えばアルチュール・ランボーの孤独ほどわかりやすくはない。地理的なものでも空間的なものでもないからだ。現にジョブズの周りには多くの人がいた。家族がいて友達がいて仲間がいた。アップルという会社をつくってからは多くの部下がいたし、有能なスタッフにも事欠かなかった。

さらに計算高い投資家や虎視眈々とビジネス・チャンスを狙うライバル、彼が開拓した市場を食い荒そうとする敵にも囲まれていた。ジャーナリズムはジョブズを追いかけ、熱狂的なファンは彼を教祖のように崇めた。これほどにぎやかな人生はまれだと言っていい。27歳でアフリカに渡り、10年という歳月を完全な孤独のうちに過ごしたランボー、家族からも友たちからも消息を絶ち、言葉も通じない部族が住む土地で1人死んでいった男に比べれば、ジョブズの人生は圧倒的に華やかである。

にもかかわらず、彼は深い孤独のなかにいるように見える。追いかけてみたいのは、ジョブズという1人の人間と切り離しようのない孤独だ。彼をめぐる物語は、すでに数多く書かれている。それでもなお書かれていない物語がある気がする。自分だけが言葉にできる物語。ジョブズの写真が持っている力、強い説得力によるものかもしれない。

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