スティーブ・ジョブズ、今だからこそ語る伝説 「あの日のジョブズは」彼の知られざる姿を描く

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男を探している。どこにいるのかわからない。どこを探せばいいのか見当もつかない。重要なやつなのか? おそらくキリスト教徒にとってのイエスと同じくらい重要だ。イエスと同じように、彼も後の人々からは歴史を大きく変えた人物と評されるだろう。ぼくたちはいま、その男がもたらした現実を人類規模で生きている。

周りを見てみるがいい。誰もがうつむいてスマートフォンを操作しているだろう。タッチパネルに指を触れ、縦や横にスクロールしたり、指先で小刻みに叩いたり……すでに当たり前になっている光景をつくり出したのは、おそらく彼、ぼくが探している男だ。

ジョブズは新しい宗教を生み出した

その男は何をしたのか? コンピューターと人間を近づけた。コンピューターをパーソナルなもの、パーソナルよりもっとパーソナルなものにした。人間的な魅力を備えたコンピューター、友達や相棒としてのコンピューター。コンピューターに愛を持ち込んだ? コンピューターを愛されるプロダクトにした。アップル・エクスペリエンス。イエスが神と人間の間を取り持ったように。新しい世界宗教を生み出したと言ってもいいかもしれない。

2000年前にイエスが発したメッセージはシンプルなものだ。「神の国」はすぐそこに来ている。主なる神は貧しい人々や持たざる人々の苦労を見ておられ、彼らの苦悶の叫びに耳を傾けておられ、いま、そのために何かをなされようとしている。このシンプルなメッセージは、だがイエスの時代にはローマ帝国への宣戦布告にほかならなかった。極めて危険なメッセージだったのだ。自らを「メシア」と名乗る者は、直ちに捕らえられ処刑された。支配者たちが恐れたのは、イエスが行う奇蹟行為ではなく、彼が発するメッセージだった。

一方、ぼくの探している男が発したメッセージはこうだ。「コンピューターの向こうに未知なる未来がある」。あるいは「誰もがコンピューターに触れることによって未知と未来にアクセスできる」。パスワードは「アップル」。神話的ではないか。「アマゾン」が未開や野生なら、「リンゴ」は神話的であり旧約聖書的だ。旧約聖書のなかで神がモーセにもたらした石板は、いまやポケットのなかに入るスマートな携帯端末に姿を変えた。彼はイエスのように迫害され、捕らえられて処刑されることはなかった。それどころか世界に受け入れられ、巨万の富を手にした。だが最期は病に倒れた。膵臓がんだったという。いかにも現代的な病だ。ほとんど殉教と言いたいくらいだ。

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