「ちきゅう」はどうやって掘っているのか 海洋研究開発機構の地球深部探査船に行ってきた②

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ドリラーズハウスには、「KILL」という物騒なシールが貼られた機械もある。これは、井戸を殺すためのシステムだ。

掘削の間、海底とちきゅうはパイプで固定されているので、台風などで海が荒れたら、ちきゅうは振り回されてしまう。緊急離脱が必要だ。その離脱をスムーズに進めるための、井戸コントロールシステムがこれなのである。

掘り進める前に、井戸の頭の上に乗せるBOPという装置は、掘削時にも欠かせないが、離脱の際にも欠かせない。離脱の際は、BOPが上下荷切り離され、下に残された部分は、ガスなどの噴出を防ぐためしっかりと閉ざされる。これが閉じないと、2010年のメキシコ湾のような事故を招いてしまう。

1000本のドリルパイプ

さあ、せっかくつなぎを着たのだから、レカロシートでの座学はこのくらいにして、パイプやBOPを見に行こう。

ご案内役はJAMSTECの澤田郁郎さん。ちきゅうでは船上代表という職にあり、「もっと掘って獲ってほしい」という研究者と「安全第一」という掘削者の間でどこまでなら掘削ができるかを見極め、判断する人だ。

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海底を掘るためのたくさんのパイプ

金属製のパイプが積まれている。ドリルパイプだ。この先頭にドリルビットをつけ、ガンガンと掘り進んでいく。ビットはすぐに摩耗してしまうが、パイプは再利用する。再利用にあたっては、専門機関で目に見えないクラックや疲労状況などを検査する。

停泊中の現在はほとんどが検査中で、ラックの大半が空。フル装備の場合は1万メートル分1000本のドリルパイプが積まれる。ドリルパイプの接続には、切ってあるオスメスの溝を活用する。

足元の金網の下には、より太いパイプが積まれている。これが、ライザーパイプ。井戸と船とをつなぐパイプである。金属製ではないので軽そうに見えるが、これが1本27メートルで27トンもあるという。浮力を変えるために太さはさまざまで、水深によって使うパイプの太さを決めるという。白いパイプの上にフサフサとして見えるのは、掘削中に住み着いたゴカイの変わり果てた姿だ。ライザーパイプのジョイント部分はボルト止め。

階段を下りると、大きな四角い物体が二つ並んでいた。これが、上下に切り離されたBOPだ。重さは約380トン、高さは重ねた状態で14.5メートル。これだけでビル5階くらいの高さだ。なお、ガンダムの身長は18メートル。これを吊り下ろすというのだから、ただごとではない。

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海底とちきゅうをつなぐ井戸の一部

上を向くと、先ほどまでいたドリラーズハウスのフロアを下から見上げる格好になった。やぐらが直接見えない分、ほかのものが視界に入ってくる。6本の黄色い柱が左右に3本ずつ、斜めに上へと聳えている。

6本の柱は、ライザーテンショナーだ。ちきゅうは6基のスラスターと呼ばれる360度回転するプロペラで水平方向や傾きなどの姿勢を制御されているのだが、上下動だけは船体では吸収できない。そこでこの巨大な6本の腕を同時に上下させることで、ライザーパイプを安全にぶら下げることができるのだ。

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