豚に3密を強いる農水省「放牧禁止」政策の是非 突然の方針発表に畜産農家の反対活動が拡大

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家畜に対する「動物への配慮」は、ペットのように殺処分の廃止を求めるのではなく、人間の利益のために動物を利用することは可としながらも、飼育環境を改善し、食肉処理の際の苦しみを和らげるという、せめてもの配慮である。

そのために主張されているのが、「空腹と渇きからの自由」「不快からの自由」「痛みや傷、病気からの自由」「正常な行動を発現する自由」「恐怖や苦悩からの自由」の5つだ。

鶏肉が100グラム50円ほどで売られていることがある。値段があまりに安いから、家畜が病気やケガをしても治療してもらえず、苦しまないように殺すにも費用がかかるから、生きたままの鶏が火の中に放り込まれたり、ゴミのように捨てられるような事例も、一部ではあるが報告されている。

そうしたことをする業者がけしからんというだけでは、問題は解決しない。そこで出てきたのが、消費者は価格が高くても、よりAWに配慮した食肉を選ぶべきだという考え方だ。

AWのための議員連盟も発足

2月19日には「動物福祉(アニマルウェルフェア)を考える議員連盟」が超党派で設立。動物愛護法で取り残されている動物福祉や畜産動物、実験動物への配慮に取り組む方針だ。

アニマルウェルフェアを考える議員連盟も発足(写真提供:アニマルライツセンター)

設立総会には、国会議員24人と代理18人のほか、官庁・報道・関係団体から78人が参加。会長には自由民主党の尾辻秀久参議院議員、会長代行には立憲民主党の生方幸夫衆議院議員が就任した。

6月9日の衆議院農林水産委員会では、同議連のメンバーでもある立憲民主党の堀越啓仁議員が、農水省の突然の方針に「科学的根拠が希薄である」と江藤拓・農水相に訴えた。

ペットを中心とした動物愛護が進む一方で、大量の家畜や実験動物、毛皮動物などが人間の利益のために犠牲になっている。食の安全は最も重要だが、今回の豚の放牧制限の方針に関しては科学的根拠をしっかり検証し、AWとの関係にも配慮した結論が望まれる。

細川 幸一 日本女子大学教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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