豚に3密を強いる農水省「放牧禁止」政策の是非 突然の方針発表に畜産農家の反対活動が拡大

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佐藤名誉教授はさらに、放牧養豚は近未来型養豚となる可能性があると指摘する。

2017年3月に公表された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会「持続可能性に配慮した畜産物の調達コード」には、食材の安全、環境保全、労働安全に加え、アニマルウェルフェア(動物福祉、以下AW)への配慮が盛り込まれている。AWへの配慮とは、畜産動物の体と心の健康に配慮する飼養方式を意味する。

農水省生産局は3月16日付で、各地方農政局に対し、「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」を通知。畜産動物のAW改善をさらに推進しようとしている。

放牧養豚はAWにかなうものであり、近未来畜産の1つの方向性を見ることができる。したがって、放牧禁止、そしてその後に起こると予測される放牧養豚農家の倒産や廃業は、近未来畜産の芽を摘むこととなりかねず、国家的損失につながると、佐藤名誉教授は問題提起する。

放牧禁止がはらむ、もう1つの問題

最近、「SDGs」や「エシカル消費」という言葉を目にする機会が増えた。SDGsとは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のことで、2015年9月の国連サミットで採択され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標だ。

具体的に17の目標を挙げているが、目標12では「つくる責任 つかう責任」として、生産と消費のパターンを変えることによって、天然資源や有害資源などの利用、廃棄物や汚染物質の排出を最小限に抑えることを目指している。

そして、生産と消費のパターンを変えるために注目されているのが、エシカル消費という考え方だ。これは倫理的消費(ethical consumption)の意味で、消費者が自らの行動が社会に与える影響を考えて消費することを促す概念。消費行動を通じた人権・環境・社会への貢献などが謳われているが、欧米でこれらと並んで主張されているのが「動物への配慮」だ。

スーパーには「おいしそう!」と消費者が手にしてくれるように、きれいにカットされ、パックされた食肉が並んでいる。しかし、そうした肉は、人間に供するために繁殖・飼育され、食肉処理された家畜たちの最後の姿だ。

犬や猫といったペットをかわいがり、殺処分問題に関心を持つ人も近年増えているが、家畜が人間からどのような扱いを受け、どのように食肉処理されているかに関心を持つ消費者は多くはない。

大量生産・大量消費社会の影響は食肉の生産にも及んでおり、畜産は工場型畜産がほとんど。家畜の飼育現場は効率を追求するあまり、閉所で大量に家畜を生産する方式が多く採用されている。それにより、消費者は安く食肉を手に入れられるわけだが、一方でSDGsの流れの中で、命ある動物の尊厳に配慮することも求められ始めている。

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