豚に3密を強いる農水省「放牧禁止」政策の是非 突然の方針発表に畜産農家の反対活動が拡大

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大臣指定地域には、豚熱に感染した野生イノシシがいる都府県および豚熱ワクチンを打っている地域が指定される見込みで、24都府県がこれに該当する。これらの地域にある放牧養豚場は放牧ができなくなる。

しかし、屋外で動物を飼育することによってウイルスに感染しやすくなるという科学的な根拠もなければ、屋内での飼育によって豚熱の感染が防げるという根拠もないと、前出の岡田氏は憤る。

実際、日本の豚熱感染はほとんどが屋内飼育の養豚場で発生しており、この豚熱を収束に向かわせた要因は「ワクチン」だ。過去の豚熱流行はワクチンによって収束し、今回も沈静化しつつある。

また、国内の放牧養豚場は、すでに屋内飼育の農場と同様の感染症予防対策をとっているという。外柵をつけ、放牧地は外柵の内側5メートルに設置し、電柵をつけたことで、イノシシとの接触は防がれている。こうした対策に加えて、ワクチンも打っている。

屋内飼育こそ感染を誘引する?

屋内における母親豚のストール飼い(写真提供:アニマルライツセンター)

応用動物行動学・動物福祉学が専門の佐藤衆介・東北大学名誉教授は、国内で豚熱を発症した全58例の分析を踏まえ、次のような見解を表明している。

豚熱の媒介者は、豚、ヒト、車両、飼料(食品残渣)、敷料、野生動物などが考えられる。今回の農水省の改正案は「環境に開放的である放牧養豚では媒介者としての野生動物の可能性はさらに高まる」との認識に基づいている。

しかし、野生動物が養豚施設に侵入する要因は、開放性にあるのではなく、野生動物にとっての「食料」と「隠れ場」にあると、佐藤名誉教授は指摘する。建造物の設置はむしろ隠れ場としての要素を向上させ、誘引要因となる可能性があるという。

そのうえで、舎飼(屋内)養豚と放牧養豚の間で、野生動物以外の媒介要因による豚熱感染リスクに差があるとは考えにくく、放牧におけるイノシシ対策ができていれば「放牧養豚の中止を命じる科学的根拠は乏しいと言える」と結論づけている。

農水省では、食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会でこの問題を扱っている。主に4月9日開催の第42回部会で本件の決定がなされているようだが、新型コロナウイルスの影響もあってか、持ち回り開催となっている。同省のホームページに「概要」は掲載されているが、諮問された項目が記載されているだけで審議内容の記載がまったくない。

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