環境のせいにする人は自分が見えていない 楠木建×高森勇旗「不運と不才の受け止め方」

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高森:一発勝負の連続で勝ち上がる高校野球と、勝負し続けて、最終的に勝っているほうが強いっていうプロでは、求められる能力が全然違います。

楠木 建(くすのき けん)/一橋ビジネススクール教授。1964年、東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(ともに編著、東洋経済新報社)などがある

楠木:それは、輪をかけて思いどおりにならない環境(笑)。そこ(高校野球とプロ野球の違い)には、ある程度適応できたのですか?

高森:これに関しては、すんなり受け入れて適応しました。レベルが違いすぎるのです。だから、むしろ謙虚になれたというか。全面降伏という感じです。

楠木:なるほど。そうすると、「思いどおりにならない」ということにも、受け入れやすいものと受け入れにくいものがありそうですね。あからさまにどうしようもないことだとかえって受け入れやすい。

そんなレベルの違いを受け入れて適応した結果、確か高森さんは、2軍で記録を作ってますよね?

高森:一応、2年目にプロ最年少サイクル安打を達成して、3年目には最多安打と技能賞とビッグホープ賞を獲得しています。

筒香が来た!

楠木:そこまで順調で、4年目にレギュラーを外れるんですよね。何があったんですか?

高森:わかりやすくいうと、筒香(嘉智)※が入ってきたんですよね。同じ左バッターで、当時は2人とも内野手で。彼は今年からメジャーリーグに移籍しましたが。

楠木:わかりやすいなあ(笑)。筒香選手ばっかりは思いどおりにならない(笑)。3年目まで順風満帆。夢いっぱいな中で、避けられない環境要因が降りかかってきた。仕方がないことですが、ショックでしたでしょうね。

高森:横浜高校から入団する、地元横浜のスターでドラフト1位。当時、ベイスターズのサードは村田(修一)さんというスターがいましたから、使うとしたらファースト。

当時の僕は、ファーストだったんです。勝てっこないってわかっちゃいるんですけど、それを認めるわけにもいかないんで、相当な危機感を持って、めちゃくちゃ練習しました。

楠木:やっぱり、筒香さんっていうのは相当すごいんでしょうね。天才的な何かがあるというか。

高森:それはもう、別物です。奇跡的な柔らかさと高い技術があるうえに、パワーもあって人格者。僕が監督だったとしても、筒香を起用すると思います(笑)。

とはいえ、当時、僕もものすごく調子がよかったんです。前年にタイトルも獲ってますし。だから、なおさら試合に出られない状況が受け入れられない。当時は若かったですし、俯瞰して物事を見ることなんてできません。

やることと言ったら、自分がいかに不遇か、いかに環境が理不尽かという不満を言いまくることくらいでした。このモードに入っちゃうと、世の中で起こっていることすべてをマイナスに解釈してしまうのです。「あの人はオレのことが嫌いなんだ」とか、「オレへのあてつけなんじゃないか」とか。

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