フランス「自国語愛」にラジオ局が悲鳴上げる訳 厳しすぎる規制にラジオ局が救済求める

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かつては「パリの街でフランス人に英語で話しかけると、理解しているのにわからないふりをしてフランス語で返答してくる」などと揶揄する声もあったが、それは昔の話。今では若者中心にむしろ、英語を話すことに積極的だ。フランス語で道順を尋ねても、相手が日本人とわかれば英語で説明してくれるケースが多い。

最近では英語がそのまま、フランス語になった「フラングレ」と称される言葉も増えた。たとえば、「マネージメント(management)」。フランス語にはこれに相当する「ジェスチョン(gestion)」という言葉があるが、フランスの多くのビジネスパーソンは「ジェスチョン」でなく、「マナジュモン(management)」という言葉を好む。

文化相のツイートはこうしたフランス社会における「アングリシスム(英語化)」の浸透に対する警戒感の表れともいえる。

ラジオ局を苦しめる「クォータ」

放送局を対象にした「クォータ」も共和国憲法の精神を汲むものだ。仕組みは複雑だが大まかにいえば、民間ラジオ局については原則、1日の聴取者の多い時間帯(月~金は午前6時30分~午後10時30分)に流す音楽の少なくとも35%あるいは40%をフランス語の楽曲にすることが義務付けられている。もともとは1986年に制定された通信の自由に関する法律に盛り込まれた。

2016年の法改正では、規制強化の一環として「ローテーションの上限」が導入された。具体的にはラジオ局側がクォータを順守しようと特定の曲ばかりを流すのを防ぐため、多く流す上位10曲の全体に占める比率が50%を超えた際には、超えた分をクォータの対象に含めないといった内容だ。

一部のラジオ局にとっては、これを守るのが実はそう簡単でない。というのも、フランスで人気の音楽には英語の曲が多いからだ。

フランス音楽産業の権益保護団体、全国音楽出版組合(SNEP)の公表したランキングがある。それによると、同国のラジオ局が昨年、最も多く流した曲は、イギリス・スコットランド出身の音楽プロデューサー、カルヴィン・ハリスが同じくイギリスのソロシンガー、ラグンボーン・マンと初めてコラボした「ジャイアント(Giant)」である。年間の放送回数は8万3377回。聴いた人はのべ15億人を数える。

2位は世界でも人気の英国のエド・シーランとカナダのジャスティン・ビーバーの「アイ・ドント・ケア(I don’t care)」。3位はアメリカビルボードのヒットチャート「ホット100」でナンバーワンに輝いたイギリス・スコットランドのルイス・キャパルディが歌う「サムワン・ユー・ラブド(Someone You Loved)」だ。

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