ジブリ作品の「物語」はこうして作り上げられる

鈴木敏夫×石井朋彦が説く「ジブリの仕事」

鈴木:記憶するときにもね、覚えやすいものと、覚えにくいものがある。例えば石井のことを話そうとするとき、「出会ったときは20歳だった」とか「出身地はどこだ」とか、そういう要素をいくら並べても、石井の本質に触れることはできない。

でも「協調性がない」「ほかのみんなが困っていた」「石井の上司がやってきて、鈴木さんが引き取ってくれるなら会社に残れるけど、だめだったらクビだと言った」……これのほうがわかりやすいよね。

石井:具体的なエピソードがあると、僕という人間をイメージできますもんね(笑)。

鈴木:覚えにくいものっていうのは、整理の仕方がダイジェストだから。1つのことに対して印象に残るように書いてない。そういう言葉や文章は覚えられない。そういうものが今、世界にはあふれている気がする。それよりも、1つのエピソードがポン、とあったほうが忘れないし、印象に残る。

石井:ダイジェストではなく、エピソードのほうが大事。

鈴木:だから、どこの高校を出たとか、どこで生まれ育ったとか。血液型がなにかとか。そういうのってね、本当に意味があるんだろうか、という気がする。その人を象徴する『なにか』っていうのを、いっぱい持っている人が豊かなんじゃないかな。

ファンタジーの役割とジブリの物語

──『思い出の修理工場』は、いわゆるファンタジーに分類される小説ですが、近年、ファンタジー小説はなかなか読まれなくなってきています。ファンタジーについて、鈴木さんはどうお感じになっていますか?

鈴木:ファンタジーっていうのは、アイルランドのほうで生まれたものなんですよ。その多くは20世紀のある時期に、必然的に生まれた。そして、あるときにその役割を終えたんです。世の中には、時代とともに生まれて成長し、成熟してなくなってゆくものがある。そういうことで言うと、1回終わったジャンルだと思う。

──一度終わったジャンルというのは?

鈴木:ファンタジーの何が素晴らしかったのか。当時、すべてのファンタジー作品につらぬかれていたのは「倫理観」だった。「人間にとってはこれは大事なことだ」っていうことが書かれていた。今は、世の中が変わっちゃったから、ファンタジーの役割がある意味終わってしまった、と僕は思う。

石井:鈴木さんもたくさんファンタジー読んでいましたもんね。

鈴木:一応読んでいたよ。なんだろう……ヨーロッパもそうだし、アメリカもそうだし、そして日本もそうだったんだけど、人々がみんな生産者だった時代があるでしょ。そのときにファンタジーって生まれているんだよね。

ものを作るって大変なこと。そんな時代に、いいファンタジーが生まれている。それは、必ずしも子どもを対象にしたものじゃなかった。大人も読むものだった。それがだんだん狭められて、子どものものになっていった。

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