カレーのココイチが、タイで人気沸騰のワケ デートも商談も「3000円カレー」を食べながら

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ローカルマネジメントは試練の連続

あるとき、浅川氏は店舗で現地指導を行い、気がついたことをこまかく指導した。すると、店長が30分たっても1時間待っても、戻ってこない。ちょっと前に、「トイレに行く」といって、トイレに入ったのを見届けたばかりだ。「狭いトイレで、何をサボっているのか」と思いきや(サボるのはアジアではどの地域でも、必ずしも珍しいことではない)、店長が突然失踪してしまったのだ。店はオープンしたばかりである。結局、その店長は何日経っても、戻ってくることはなかった。

しばらくたってから、失踪した理由がわかった。実は、ミスを指導された後、トイレで田舎に電話したら、母に「寂しいなら田舎に戻ってきたら」と言われ、つい寂しくなってそのまま帰ってしまったのだ(!)。

店長として求められることを、日本の感覚でごく普通に指導をしたのだが、これは全く予期せぬ出来事だった。そもそも、日本と海外ではカルチャーも違う。日本であれば、先輩が新人に教えるのは当然だが、タイでは全く教えないのだ。

「自分の仕事がなくなるから」とか、「調和を重視するので、部下を叱るのが苦手」など理由はいろいろあるのだが、放っておいてもなかなかココイチのやり方が伝わらない。かといって、あまり厳しく指導をすれば先述の店長のようになりかねない。

小さな成功体験を積ませて、現地スタッフに自信をつけさせることに成功した浅川氏。タイの現地事情を理解しつつ、多店舗化戦略を進めている

そこで、浅川氏も、日本のように普通に指導するだけでなく、小さな成功体験を積ませて、できたことはこれでもかと褒めた。普通にカレーをお客さんに出せただけでも、挨拶ができただけでも日本では当たり前の、「低いレベル」のことでも、自信をつけさせていった。家族的なつながりを重視するカルチャーにも配慮、全従業員を集め自腹でパーティーをすることもあった。

カルチャーの違う中では、現場も日本と同じやり方だけでは成功しないのだ。
筆者が、日系企業を支援するにあたって、良く遭遇する失敗のケースは、日本の成功事例にとらわれ過ぎて、おごりが出てしまうことだ。

実はココイチも、アジア進出当初は相当な苦戦を強いられた。そのなかで、パートナーとの協力関係を一つ一つ築き上げていった。何を変えて、何を変えないのか。自前でやる部分はどこで、外部の力を借りるのはどこか。この一つ一つのこまかな決断がビジネスの成否を分けているのだ。

日本市場が伸び悩む中、いかに海外で日本の事例にとらわれず勝負するか。ココイチから学ぶ点は多い。世界の多くの新興国のココイチで、デートや商談をする時代がやってくるかもしれない。

徳谷 智史 エッグフォワード 代表取締役

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とくや さとし / Satoshi Tokuya

京都大学経済学部卒業。企業変革請負人。組織・人財開発のプロフェッショナル。大手戦略系コンサル入社後、アジアオフィス代表を経て、「世界唯一の人財開発企業」を目指し、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサル、リクルートグループなど、業界トップ企業数百社に人財・組織開発やマネジメント強化のコンサルティング・研修など幅広く手がける。近年は、先進各社の働き方改革、AI等を活用したHR-Tech分野の取り組みや、高校・大学などの教育機関支援にも携わる。趣味はハンドボール、世界放浪等。ご相談・取材・執筆・講演依頼はこちら

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