また、民放のテレビマンたちに、「人気俳優や脚本家を起用したにもかかわらず、質の部分を疑問視されてしまったことをどう思うか」と尋ねると、そろって口にしていたのが「NHKさんだから、それでもいいのでしょう」という声。彼らはそれ以上語りませんでしたが、「民放よりも金、人、時間に余裕がある」「スポンサーや視聴率を考慮しなくていい」という恵まれた環境にグチをこぼしたい心境が推察されます。
ドラマに限らず、あらゆるビジネスシーンにおいて、「商品の質を高められない」ことは、「マネタイズの難しさ」に直結。実際、前述した大半のリモートドラマは無料公開されたものだけに、よほど再生回数が増えない限り、スタッフやキャストに妥当な対価が支払われることはないでしょう。それでも「エンターテインメントの火を消さない」という純粋な思いで制作された作品が多いだけに、国民の受信料で制作しているNHKのリモートドラマとは、まったく意味合いが異なるのです。
質の面でNHKの不安を感じさせるのは、リモートドラマの放送時間。第1弾・第2弾ともに23時台の深夜帯であり、30分・15分の短い作品でした。もしNHKが質の意味で自信を持ってリモートドラマを放送できるのなら、多くの人が視聴する19~23時のプライムタイムで放送するでしょうし、ほかのドラマ枠と同様に45分のドラマを制作したのではないでしょうか。スポンサーや視聴率の縛りがないNHKですら、それらを避けているところに、テレビ局が制作・放送するリモートドラマの限界が見えます。
深夜帯の短い作品である以上、見てもらうチャンスが少ないのは仕方ないのですが、世帯視聴率は5月4日が1.6%、5日が2.2%、8日が2.5%と断トツの最下位でした(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。あまり見られていないのに第2弾を放送するのですから民放のテレビマンたちが、「NHKさんだから、それでもいいのでしょう」とグチをこぼしたくなる気持ちも理解できるのではないでしょうか。
テレビでリモート画面は見たくない
NHKのリモートドラマがここまで思ったような支持を得られていない、もう1つの理由は「視聴者感情をつかみ切れていない」から。
NHKにしてみれば、朝ドラや大河ドラマの撮影すらできない中、「こんなに努力して新しいものを提供している」という思いがあることは想像にかたくありません。しかし結果として、スピード感が遅く、質の低い作品を見て、「痛々しい」「つらい気持ちになる」という声を上げる視聴者が少なくなかったのは事実なのです。
また、これはNHKのリモートドラマに限らず、民放各局のバラエティなども同様ですが、このところ日ごろ仕事でリモート会議をしている人々から「テレビでもそういう画面を見たくない」「仕事モードに引き戻される感じがして嫌」という声が目立つようになりました。「時事や流行の話題が多いバラエティがリモートを使うのは、ある程度仕方がない」としても、その「ほとんどがフィクションであるドラマにわざわざリモートを持ち込む必要性があるのか?」と疑問視しているのです。
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