こうした状況に至った要因は複数あるだろうが、日々報じられているように省力化技術(ロボット化など)の進展は、地理的に離れた場所に拠点を構えて低賃金労働に依存する必要性を薄めた可能性がある。低賃金労働に依存する体制は故意・過失を問わず知的財産の流出を懸念する種になりうる。中国に限れば、この点が対米摩擦の根幹にあることは周知の通りだ。
また、グローバリゼーション局面を経て、「低賃金労働に依存できる海外拠点」も少しずつ変化してきていることは想像に難くない。中国に限らず、高成長を続けてきた東南アジアにおいて賃金上昇圧力が生じるのは当然である。
直接投資もピークアウトの様相
貿易取引以外にもグローバリゼーションが退潮にあった疑いを感じさせるデータはある。グローバリゼーションが隆盛を極めていれば、企業は「海外拠点を構える」という投資行動を積極化するはずである。貿易取引が活発化する局面では多国籍企業が生産や物流そして販売するための拠点を世界各地に構えるために投資を行う。
そのような動きは統計上、対外直接投資(FDI)として現れるものだ。そのデータを見ると、2008年から2019年の12年間に関し、前年比で対外FDI残高が増えたのは2010年、2011年、2015年の3回しかない。12年間としたは2008年からの最新2019年までを観測したかったためだが、1996年から2007年の12年間で見ると前年比で「増えなかった」年が3回しかない。しかも、この3回は2001~2003年の3年間であり米国同時多発テロの後遺症などもあったと考えられる。
前述の貿易取引の趨勢変化と併せ見れば、やはりグローバリゼーションの流れは前回の金融危機を境として巻き戻しとはいわずとも、歯止めがかかり始めたというのがマクロ的な理解になるように思われる。
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