アフターコロナで待つのはインフレかデフレか 「効率」より「安全」を優先する時代になるのか
前回の東洋経済オンラインのコラム『アフターコロナで注目したい世界の「日本化」』はたいへん多くの反響をいただいた。同コラムではアフターコロナにおいては政府の大規模財政出動の副作用としての金利上昇を抑制すべく、中央銀行のバランスシートが「身代わり地蔵」のように膨らむ未来を議論した。
筆者は「中銀バランスシートの健全性」と「通貨の信認」は本質的に関係がないと考える立場だが、直情的な為替市場ではテーマとして耳目を集め、特定の通貨が売り進められるかもしれないと論じた。その際、おそらく最も標的になりやすいのが日本円であることも指摘した。
こうした「通貨の信認」問題はそのまま「アフターコロナはインフレか、デフレか」というさらに大きな論点にも関係してくる。今回はこの点に想像を働かせてみたい。非常に粘着性の強いデフレに陥った日本がにわかにインフレに見舞われるとしたら、円安発、輸入物価経由でコストプッシュ型のインフレが進む展開がいちばん想像しやすい。経済規模対比で圧倒的にバランスシートが大きい日銀の司る円はつねにそういったリスクについて色眼鏡で見られやすい。
だが、上述のコラムでも議論したように、仮に中銀のバランスシートが債務超過に陥っても、それがすぐにその通貨の信認を損なう材料になるとはかぎらない。過去のスイス国立銀行やドイツ連邦銀行は自国通貨高ゆえにバランスシートが大幅に毀損したことがあるのだ。だから、アフターコロナの世界で「円安発、輸入物価経由でコストプッシュ型のインフレが起きる」と筆者は考えていないし、他の主要国でもそのようなことが起きる可能性は低いとみている。
ディマンドプル型のインフレは?
片や、需給が逼迫してディマンドプル型のインフレが進む展開はどうか。これも全世界的にやはり考えにくい。前回のコラムで強調したように今後の世界では貯蓄・投資(IS)バランスにおいて「民間部門の貯蓄過剰」が1つのトレンドになっていくだろう。これは潜在成長率やこれに対応する自然利子率の低位安定を想起させる世界であり、旺盛な需要がインフレを牽引する世界ではない。
そもそも多くの財・サービスの配分が効率化された現代でディマンドプル型のインフレが発生するには、生産設備や社会インフラなどが大々的に破壊され経済の供給能力に制約が発生するような状況が必要と考えられる。
この点、今回のコロナショックでは「戦時中」との形容が頻繁に持ち出されるように、生産活動が阻害され、各国国境の検問も厳しくなった結果、貿易取引が停滞するなど供給能力に制約が出ている。物理的な破損こそ生じていないが、それを操る人間が停まっているので実質的には戦時下と同じような物価上昇圧力が発生しやすい環境ができあがっている。こうした状況下、財が不足することでディマンドプル(需要超過)型のインフレが起きるのではないかとの不安を持つことは理解できる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら