アフターコロナで待つのはインフレかデフレか 「効率」より「安全」を優先する時代になるのか
しかし、供給制約による物価上昇圧力にさらされている財はあるものの、それが物価全般を規定するとはかぎらない。マスクや消毒液などの医療物資やテレワーク関連の機材(PC、ヘッドセット、ウェブカメラなど)などについて局所的な物価上昇が確認されたからといって、他方で需要が人工的に削り取られている世界で広くあまねく物価上昇圧力が発生するだろうか。
日本の消費者物価指数に占めるウェイトを見た場合、医療関係だとマスクを含む「保健医療用品・器具」は0.72%、風邪薬などを含む「医薬品・健康保持用摂取品」は1.21%、最も大きな診療代などを含む「保険医療サービス」は2.37%である。「保健医療関連」と最も大きな分類まで視野を広げてようやく4.3%に達する。また、パソコン、テレビ、ビデオレコーダーなどを含む「教養娯楽用耐久財」は0.59%しかない。電化製品という意味では電子レンジや電気炊飯器、冷暖房用器具を含む「家庭用耐久財」でも1.11%だ。
一方、宿泊料やパック旅行費、習い事の月謝、映画館やテーマパークなどの入場料を含む入場・観覧・ゲーム代など、今回のショックで甚大な被害を被ったであろう「教養娯楽サービス」は5.92%と「保健医療関連」の1.4倍もある。ちなみ「外食」という分類だけで5.21%だ。ほかにも不要不急の名の下に、あらゆる財・サービスへの需要が低迷している以上、物価が持続的に上がる筋合いにない。
もちろん、単純にCPI(消費者物価)のウェイトと現在起きている事象だけを基にして物価の帰趨を占うことはできないが、マクロ経済の動学的な資源配分を分析するには、やはりISバランスの分析が要諦である。民間部門の貯蓄過剰を既定路線と考えるのであれば、一部の財に見られる物価上昇に惑わされることなく、長期にわたる需要低迷を理由にしたデフレを懸念するのが整合的というのが筆者の基本認識だ。
脱グローバルや国内回帰がキーフレーズに
実際のところは、原油を筆頭とする商品価格の帰趨や感染拡大の収束時期、これをめぐる各国の海外経済活動の抑制度合いなど物価に寄与する変数は非常に多く、非線形にインフレ圧力が強まるような世界も否定できるものではない。経済活動を停める期間が長いほど世界のどこかで何かしらが足りなくなる可能性が出てくる。上述したような供給制約を理由とするインフレの芽があることはやはり気になる。
例えば、スマートフォンやPCで不具合が生じても中国から部材が届かないために修理できないという状況があるという。住宅建築でもトイレを中国で製造するケースが多く新築住宅が建たないというケースもあると聞く。こうしたケースが日用品の次元で増えてくれば、品不足でディマンドプル型の価格上昇という現象が短期的に出てくる。
しかし、より重要なことは中長期的にそうした状況が長く続けば、国内で代替生産に切り替える動きが出てくることだ。そもそもコストが安いから海外で作っていたのだとすれば、代替材は価格上昇するはずである。このような経路を辿って、中長期的にコストプッシュ型のインフレが進む可能性はある。
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