小金持ちはなぜ「お金」を"正しく"使えないのか 誰もが持つ「心の会計」との上手な付き合い方
いくつもの研究結果が示すとおり、わたしたちは始終これに似た判断を下している。どこまでお買い得かを、支払う金額の何パーセントになるかで考え、実際の差額を自分の購買力と比べてみようとしない。
これが「相対思考」と呼ばれる考え方だ。懐に余裕のある人々に特によく見られる。つまり、人間は買い物の金額が大きくなるほど、それに付随するコストに無頓着になりやすいことが調査からわかっている。
このように、損得勘定をするとき、わたしたちの行動はいつもつじつまが合っているとはいえない。例えば、何時間もインターネットとにらめっこして、もっと安い航空券、もっと安い切符を探し求め、手数の割にわずかな金額を節約しようとする人は多い。
会社のオフィスで(上司の目を盗んで)掘り出し物を探すのなら、話はわかる。この場合、得をするのは本人で、その間の賃金を払うのは会社だからだ。
ただ、これが在宅フリーランスとして日々働きながら、同じことをしているとしたら、どうだろう。数字を弾き出したわけではないが、まず間違いなく、その時間を仕事に充てたほうが懐は温まるだろう。なのに、「割引の魅力」にはあらがえないのだ。
1ポンドの価値は状況によって変わる
ある調査結果を見ると、わたしたちはチケット料金どころでなく、もっと高額で日々発生するコストについても、同じ時間を費やして見直そうとしていないようだ。
イギリスでは安い電力を求めて電力会社を乗り換えることができるが、調査結果によると、毎月料金を見比べて安いほうに乗り換えて電気代を節約する消費者は全体の1〜10%にすぎない。節約できる金額は年間数百ポンドに上るケースもあるというのに、一握りしかいない。
なぜ、チケットを買うときには倹約に努め、電力会社の乗り換え場面ではそうしないのか。
成り行きでそうなる場合もある。切符は選ばないと旅行に行けないが、電力会社は無理に乗り換えなくてもいい。だが、理由はそれだけではない。わたしたちは先々の仕事を増やすのが大嫌いなのだ。
電力会社の乗り換えはそれ自体、さほどの手間も要らない。だが、1回限りの買い物と違って、こちらのやることが増える。月末に電力使用量を調べる、乗り換え先に申告する、口座から先月分がきちんと引き落とされたかどうか確かめる、といった一連の作業が待っている。
あれやこれやで面倒臭い。また言うまでもなく、電気代が下がるのは翌月以降で、バーゲンで買い物するときのように、思いのほか安く買え、しかもその場でピカピカの新品が手に入るという満足を味わえるわけではない。
こうした例を見るかぎり、次のように言ってよさそうだ。
「1ポンドはどの1ポンドでも誰の1ポンドでも同じ1ポンドである」という考えは、わたしたちの貨幣経済を支える柱であり、誰もが受け入れてきた考え方だ。しかし、心理学的に言えば、これは見当違いも甚だしい。