「自国優先」にもグローバリズムが必要な逆説 コロナ後の社会と「ボディ・パンデミック」 

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放っておいても、新たなコロナ弱者予備軍が80万人ほど増えるのです。

それぞれの妊婦が、平均2人の家族と同居しているとすれば、160万人以上の濃厚接触者がいることに。

これらの人々と、仕事や学校で日常的に接触する人の数にいたっては、500万、あるいは1千万に届くかも知れません。

で、妊婦の隔離・保護が徹底できると思いますか?

わが国における新型コロナウイルス感染症の死者が、比較的少なくて済んでいるのは、欧米諸国に比べても高齢者の隔離ができていなかったからだという指摘すらあります。

日本は高齢者施設が充実していないため、自宅で暮らせなくなった高齢者は、しばしば病院に長期入院する傾向が見られた。

病院が高齢者施設がわりになっていたのですが、これがプラスに作用した次第(「日本のコロナ死亡者が欧米より少ない理由、高齢者施設クラスターの実態」ダイヤモンド・オンライン 2020年5月13日)。

現に介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)といった高齢者施設は、医療法人や社会福祉法人によって主に運営されます。

どちらも病院を運営できる組織。

老健も特養も、医師が必ず配置されますし、老健については施設自体が病院に隣接していることも珍しくありません。

介護付有料老人ホームにしても協力医療機関との連携が定められており、一般の有料老人ホームでさえ看護師の配置義務がある。

このように医療と介護も分離していなかったおかげで、高齢者施設でのクラスター発生が少なくてすんだのです(「医療依存度が高い高齢者......介護施設で医療行為はどこまで受けられる?」)。

国家規模の「うば捨て」に

しかも「ボディ・ポリティックを分離できる」という発想には、もっと重大な危険が潜んでいる。

分離が可能なはずである以上、これは「必要に応じて、ボディ・ポリティックを分断しても構わない」へと容易に移行しかねないのです。

何のことか、わかりますね。

高齢者はどうせ老い先短いのだし、基礎疾患のある者はしょせん身体が弱いのだから、こういうときに犠牲になるのは仕方ない」と開き直ることです。

スウェーデンのアンダース・テグネルは「われわれは誰の命であれ、ほかの人々より大事に扱うことはしない。そのような発想に基づいて、対策を実施しているのではない」と弁明していますが、そう言わねばならないことが、すでに多くを語っている。

わが国でも、分離型自粛緩和を行ったせいで医療体制が逼迫したら、75歳以上の後期高齢者については、たとえ重症であろうと救急病棟やICUに搬送しないようにして、医療現場への負担を軽減すべきだと提唱する人々が出ました(「高齢者と非高齢者の2トラック型の新型コロナウイルス対策について」RIETI 2020年4月23日)。

「最も助かる可能性が高い人々や(、)余命が最も長い患者を優先する必要」があるからとのこと。

要するに国家規模の「うば捨て」です。

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