日本が「戦わずとも負けてしまう」と言える根拠 現状の危うさを冷徹に分析する必要がある

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その主張はこうだ。

日銀は国債のほか、上場投資信託(ETF)を大量購入し、株価を維持しようと躍起になっている。やめようにもやめられず、株価が暴落しては元も子もないだけに売ろうにも売れない。

国債についても、日銀による大量購入を前提として市場が築かれてしまっている。この構図が崩れるかもしれないという観測がリアリティーを帯びたと同時に金利は上昇しはじめ、株価は下落基調に入り、円は信用を失って、異常な円安(ハイパーインフレ)になる可能性がある。つまりはそれこそが、最悪のシナリオだ。

しかもいま、われわれが大きな脅威と直面していることは改めて言うまでもない。4月初旬に刊行された本書でも、いち早くそのことに触れている。

2020年1月以降、中国・湖北省武漢市から広がり始めた新型コロナウイルスの感染が世界規模に拡大している。世界経済の下押しは避けられそうにない。日本経済への影響も甚大で、実質GDP(国内総生産)は2019年10〜12月期に続いて2020年1〜3月期もマイナス成長を避けられそうにない。
2期連続のマイナス成長となればそれは「テクニカル・リセッション」、つまり本格的な「景気後退局面」への突入を意味する。(107ページより)

日本の金融政策は全裸状態

田崎氏はこの時点で、「その結果として起こったこと」をこのように列記している。

政府は大規模イベントの開催を自粛するよう要請を出し、サッカーJリーグの試合が延期され、アイドルのコンサート等が中止となった。無観客ライブを決行するアーティストも出ている。飲食店では、送別会や懇親会が軒並み中止となり、ホテルの宴会場の予約もキャンセルが相次いでいる。「自粛ムード」は深刻で、消費はかつてないほど一気に落ち込む可能性が高い。(107〜108ページより)

それからおよそ1カ月。状況はさらに悪化し、老舗クラブ、ライブハウスの閉鎖、飲食店経営者の自殺などが現実のものとなっている。しかし、それでもこの国の首相は、緊急事態宣言の延長に伴ってポエムのように空虚な言葉を発するばかり。

もちろん日銀も、効果的で新たな「追加緩和」策を持ち合わせているわけではない。こうした現実について著者は、「緩和」がネクタイを締める意味だとすれば、もはや日本の金融政策は全裸状態だと表現している。

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