【鎌田浩毅氏・講演】一生モノの勉強法(後編)
●心の京都、心のファッション
私自身は、どのように距離を取るかというと、一つは古典に触れることです。先ほどフランクリンの例を出しましたが、マキアヴェリは知っていますか? 『君主論』という本をルネサンス時代に書いた人ですが、彼が言っていることは、やはり今のビジネス書が言っていることと同じです。それからもっと古くて、韓非子は聞いたことありますか? 『論語』を書いた孔子先生や、孟子は、性善説と言いますね。人間はもともと良い心の持ち主で正しいことを行うという説です。それに対して韓非子は性悪説。人間というのはもともと悪い奴だから、法律などできちんと縛らないととんでもないことをしでかす、という考えです。中国思想の大きい流れの二つですね。韓非子の説は、結局今の法治体系と同じですね。悪いことをしたら必ず罰して、牢屋に入りますよね。それは人間の良さを信じずに法律で縛らなければということで、国際法から何から、結局は性悪説からすべてこの世の中は動いているわけです。ということは、韓非子を学べば今の世の中が非常に良くわかるのです。ちょっと離れたところから見ると、今の状況に気づくのです。韓非子にしても、マキアヴェリにしても、それからフランクリン自伝にしても、ものすごく深いし、彼らは余計な雑音のない時代に考えたことなのですね。そこが古典のすごさで、そういう点から世の中をちょっと離れて見ていただきたいのです。
私は京都にいるから、韓非子のような古くさい、2000年も前の本を読めるのだと思います。東京にいたら電話もかかってくるし、国の有識者会議に出ろと頻繁に言われるし、とてもそんな時間はないはずです。そういう意味で、皆さんの中に京都を作ってほしいのです。言うなれば「心の京都」。もちろん、仕事をバリバリやるのはいいですよ。やるときは徹底的に効率主義でいきましょう。けれどオフを必ず入れてください。それから古典を読む時間を。本当に昔の良いものに戻る時間です。そういうものがないと、ただ単に馬車馬のように働いて、それで定年のときにアッと気づいて、「自分の人生って何だったのだろう」などと悩むのです。そうであってはいけないと思います。今この時点から、ゆっくりものを考える時間、古典を読む時間を1日の中に作ってほしいですね。これが一生モノの勉強術であると思います。
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