人材活用に優れる企業は財務評価も高い--実証会計学で考える企業価値とダイバーシティ 第2回(全4回)

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人材活用に優れる企業は財務評価も高い--実証会計学で考える企業価値とダイバーシティ 第2回(全4回)

明治大学商学部 大学院商学研究科
教授 山本昌弘

 多様性を生かすダイバーシティ経営が行えているかどうかを評価することは、簡単なことではない。そこで東洋経済が2006年以降、毎年発行している『CSR企業総覧』を基に分析してみたい。

 この本には「CSR企業調査」に基づく情報が企業ごとに詳細に掲載されている。07年版からは人材活用、環境、企業統治、社会性という4分野のCSR評価と、成長性、収益性、安全性、規模という4分野の財務評価を開始している。この中で、「人材活用」評価がダイバーシティ評価に使える可能性が高い。

 『CSR企業総覧』では、CSR評価、財務評価ともにAAA、AA、A、B、Cという5段階で格付評け価を行っている。このうち財務評価については、筆者も05年から上場企業の財務評価プロジェクト・アドバイザーとしてかかわっている。そこでは主成分分析という統計解析によって客観的な財務格付けを実施している。各年度のCSR評価や財務評価のランキングは、『週刊東洋経済』2009年5月16日号『統計月報』2009年3月号に掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。

 筆者は、1996年に電機連合総合研究センター(電機総研)の研究会に参加して以降、企業の多元的な評価に携わってきた。99年に東洋経済から『良い会社 悪い会社』として出版した研究成果は、労働組合からの視点から、働きやすい会社、情報公開を行っている会社、社会的責任を果たしている会社など、多元的な切り口による上場企業の総合評価である。

 この総合評価の上位10位には、トヨタ自動車、ソニー、資生堂、キリンビール(現キリンホールディングス)、松下電器産業(現パナソニック)、本田技研工業(現ホンダ)、オムロン、武田薬品工業、キヤノン、高島屋が並んだ。これらは、『CSR企業総覧』でCSR評価、財務評価で高評価の企業が多い(表1、表2参照)。この2つの調査から、CSRと企業業績の間には密接な関係がありそうだということがわかった。

■表1 東洋経済・財務評価(2009年版)
(注)データは『CSR企業総覧』2009年版を使用。合計得点の満点は4000点。東洋経済財務・企業評価チーム作成
(出所)『実証会計学で考える企業価値と株価』
■表2 東洋経済・CSR評価(2009年版)
(注)人材活用、環境、企業統治、社会性の各得点を合計(各得点の満点は異なる)。週刊東洋経済などに掲載しているCSRランキングは財務評価との合計のため、この結果とは異なる。データは『CSR企業総覧』2009年版を使用。東洋経済財務・企業評価チーム作成
(出所)『実証会計学で考える企業価値と株価』
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