人材活用に優れる企業は財務評価も高い--実証会計学で考える企業価値とダイバーシティ 第2回(全4回)

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 そこで、『CSR企業総覧』2009年版(08年12月発行)のデータを使い、両者の関係を実証的に分析した(表3参照)。これは、筆者が東洋経済財務・企業評価チームと09年8月に出版した『実証会計学で考える企業価値と株価』から抜粋したもので、CSR総合得点(人材活用、環境、企業統治、社会性の4分野合計)、人材活用得点と各財務評価得点(総合と各分野)との関係を単回帰分析している。2つの変数間に完全な相関があれば、相関係数は1になる。逆にまったく相関がなければ0となる。

■表3 CSR各評価と相関が高いのは規模の大きい会社
(注)東洋経済が算出したCSR評価の各得点を目的関数にし、財務評価の各得点を説明変数にして単回帰を行った。対象はCSR評価の各得点と財務評価の各得点の両方が揃った742社。判定の**は1%有意
(出所)『CSR企業総覧』2009年版、東洋経済CSRデータなど
 これを見ると、財務総合評価がCSR総合、人材活用の2変数と有意(判定で**)な相関(CSR総合:0.4645、人材活用:0.4211)を有していることがわかる。さらに、個別分野では、規模の相関(CSR総合:0.6048、人材活用:0.5236)が最も高く、続いて収益性(CSR総合:0.1106、人材活用:0.1440)が高くなっている。一方、成長性や安全性とはほとんど相関がない。この結果からCSR総合評価、人材活用評価とも、規模が大きいと高い評価という傾向であることがわかる。

 以上のように人材活用を積極的に進めている企業は、業績もよいということは間違いなさそうだ。ただし、統計解析は変数間の相関を示しても、因果関係までは示してくれない。規模が大きく収益性も高いから多様な人材を活用する余裕があるのか、人材活用を進めることによって財務業績が向上するのかは、この分析結果からは判断できない。

 企業業績と人材活用の因果関係を明らかにするには単年度だけのデータ分析では不十分である。そこで次回は財務・企業評価チームが作成した速報版2010年度版CSR評価データも合わせ、時系列データを使い人材活用と企業業績の関係について分析してみたい。

山本昌弘(やまもと・まさひろ)
1960年奈良県生まれ。同志社大学商学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。2000年より明治大学商学部教授。博士(商学)。この間、ヘンリー・マネジメント・カレッジ客員講師、ロンドン・ビジネス・スクール専任研究員、東北大学経済学部助教授、北アイオワ大学経営学部客員教授等を歴任。「東洋経済新報社財務・企業評価チーム」アドバイザー。専攻は、国際会計論、企業評価論。
著書に『実証会計学で考える企業価値と株価』(東洋経済新報社財務・企業評価チームとの共著、東洋経済新報社)、『良い会社 悪い会社』(共著、東洋経済新報社)、『会計制度の経済学』(日本評論社)、『会計とは何か』(講談社選書メチエ)、『国際会計の教室』(PHP新書)など多数。
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