人件費の高さにも仰天
とどめは、労賃の高さでした。アフリカの労働力なんて、タダ同然だろう、とタカをくくっていた僕は、工場スタッフの給与明細を見て、びっくり。
工場長いわく、「確かに労賃そのものは安いのです。でも工場スタッフは、教育をきちんと受けていないから、機械を扱えるようになるためのトレーニングに時間がかかるし、ミスをして機械を壊してしまったり、不良品ができてしまったりして、結局は高くついてしまうのです。また、管理職の給料は、アジアの国よりも高いと思いますよ。マリでは、高校や大学まで出て、管理職をやれるような人はほんの一握りで、優秀な人はヨーロッパに働きに出てしまうし、そんな人材にマリに残ってもらうためには、それなりのお給料が必要です」。
普通に考えていくと、こんな厳しい状況では、会社が倒産してしまいそうです。でも、この会社はちゃんと利益を上げていました。工場長に理由を尋ねると、なんと、先ほど在庫の多さを問い詰めたときと同じ答えが返ってきました。「ヨースケさん、マリからいちばん近い港のダカール港と、ここまでの距離って、1300キロメートルあるんですよ」。
少し考えてみて、はっとしました。ジュースの大半は水でできています。水のような重たく価値の少ないものを1300キロも苦労して内陸輸送していたら、割に合いません。だったら、ジュースの原料だけ運んできて、マリの水を混ぜてジュースを作ったほうが安くなります。
ちなみに、港町のダカールでは、海外産のジュースが船便のコンテナで大量に上陸してくるので、地元メーカーは、これら輸入品との競争にさらされます。先進国のメーカーは、労賃が高いということ以外は、すべてアフリカ企業よりも分があるので、製造コストは安いことが多く、たいていの場合、アフリカ企業側が苦戦します。
一方、内陸にあるマリでは、内陸輸送の難しさが、輸入品への天然の障壁になっていたのでした。このマリの企業の儲けの理由は、内陸の国で、運ぶのが重たいジュースという商品を作っているという、単純な理由だったのです。
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