クラウド上で完結する仕組みは、決算をまとめた後の3月下旬の監査でも生きた。一般的な監査では、監査法人の公認会計士が被監査会社のオフィスの一室にこもり、証憑類をチェックしたり、経理担当者に話を聞いたりしている。ただ今回は監査もリモートで行わざるをえなくなった。
前出のクラウド会計Plusでは監査用のアカウントを発行し、被監査会社の会計ソフトの記録を見られるようにしている。これによって、会計士はオフィスに来なくても監査を進めることができた。証憑類もクラウド上に保存されていたため、マネーフォワード側で書類を印刷したり、メールで送付したりといった必要がなく、監査法人側もつねに最新のデータを確認できたという。
開発責任者は経理畑から抜擢
今回会計Plusのプロダクトオーナー(開発責任者)を務めた杉浦大貴氏は、新卒で入社した会社でエンジニアを志望するも経理部に配属された。その後マネーフォワードに経理職で転職し、開発部門に異動したという異色の経歴を持つ。
「実務経験者の自分が入ったことで、経理担当者が感じる課題感を翻訳して開発メンバーにも伝えられた。自動化で業務ミスをなくしたり、経営に役立つ情報を迅速に渡したりといったことを、テクノロジーで実現したかった。リモートワークにしても、ソフトウェアの都合で実現できないのはよくない。経理担当者の望む働き方を実現できるような製品を開発していきたい」(杉浦氏)
マネーフォワードで実現した完全リモートワークでの決算業務に関して前出の松岡氏は、「再現性はあると思っている」としたうえで、「経理業務には紙とハンコがまだまだ根強い。紙のほうが一覧性があって見やすく、チェックもしやすいという声も聞く。ただ電子的にできるかどうかは慣れの問題だ」と指摘する。
同社傘下のMF KESSAIが4月17~21日に会社役員や経理担当者1000人に実施した調査によれば、緊急事態宣言発令後も83%の経理担当者が出社していることがわかった。さらに半数が「テレワークをまったく実施していない」と回答。出社が必要な理由として最上位が「決算対応」(47%)、次いで「取引先への振り込み」(44%)、「請求書の作成、押印、発送」(43%)が挙がった。
その業務は本当に出社しなければできないものか。出社を前提とする業務体系になっていないか。これは現場だけでなく、経営の課題でもある。業務のデジタル化・クラウド化にとどまらず、社員を守るためには何をすべきかということを経営者が問われているといえそうだ。
一方で企業規模が大きくなればなるほど、既存の複雑化したシステムがある。直近で決算発表を延期した企業は多数の海外子会社の集計に時間がかかっていることも背景にあり、一筋縄にはいかない。創業から約8年という身軽なマネーフォワードだからこそ、完全テレワークでの決算業務を完結できたという部分もあるだろう。
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