福島の無名会社「アベノマスク4億円受注」の謎 脱税事件で執行猶予中の社長が取材に答えた

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ご覧いただくように、4月23日には、公明党の伊藤達也・福島県議会議員が「知人の厚意」により福島県にサージカルマスクを寄付していた。伊藤県議のフェイスブックには「知人」としか記されていないが、この知人とは樋山社長のことだろう。別のメディア取材に対し、樋山社長は創価学会員であることを語っている。

また、加藤厚労相の国会答弁でも出てきたシマトレーディング社は、樋山社長の親族が経営する花の輸入業者である。同社が登記されていた場所は、福島市内のひなびた温泉街の外れにある。2階建ての木造住宅に樋山家が住んでいたが、十数年前に千葉県へ越してからは空き家になっている、と近所の住民が話してくれた。

アベノマスクは、強引な政権運営の象徴か

2018年6月7日、福島地裁は約3200万円を脱税したとして、福島市の電気通信機器業・樋山茂被告に、懲役1年6カ月、執行猶予3年、罰金400万円の判決を下した。

現在、樋山社長は、脱税で執行猶予の身だったのである。

官公庁の調達では競争入札が原則だが、布マスクは「緊急性が高い」として、随意契約だった。ただし随意契約の場合は、これまでの実績などが問われるのが一般的だ。ユースビオ社のように、急ごしらえブローカーが、国の事業に関与するのは異例である。

今回のユースビオ社の納入に、果たして政治家の関与があったのか、よくわかっていない。もしかすると、マスク製造・販売のルートを持っていた同社の情報が、公明党の人脈を通じて福島県などに届き、納入に至った可能性が考えられる。ただし、実績も何もない福島の企業が選ばれた経緯については、不明朗な印象がぬぐえない。納入企業の公表を政府が渋り、公表までに何週間もかかるというのは、政府に何か隠したい事情があったと見られても仕方ないことだろう。

ユースビオ社が急遽、定款の目的に「輸入」を加えたのは、政府担当者の指示であることを樋山社長がメディアでの取材に答えている。貿易に際しての通関上の要請だけでなく、国民の批判を逃れるために、つじつまを合わせようとしたのかもしれない。

政府から各世帯に郵送で届けられている布製のマスク(東洋経済オンライン編集部撮影)

アベノマスクの一連の動きに国民の多くは、森友学園や加計学園と同じ構図を感じ取った。懸念を払拭するという点について、政府の説明は極めて不十分である。

あるいは、アベノマスクそのものが官邸官僚の思いつきに安倍首相が安易に乗ってしまったため、調達先の確保に窮してしまい、ユースビオ社のような実績のない無名企業にまで声を掛けざるをえなかったのか。そうだとすれば、ユースビオ社は騒動に巻き込まれた一当事者になる。 

アベノマスクを通して、あらためて浮き彫りになったこと。それは、官邸の「思いつきの政策」に誰も意見することができない「風通しの悪さ」と、無理が通れば道理が引っ込む日本の現実ではないだろうか。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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