東日本大震災のときから交流のある福島県庁の幹部に、ユースビオ社について聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「今回の報道で初めて知った。地元でも無名の会社。通常は実績のまったくない専門外の業者を、県が国に紹介するなどありえない。だが、今回は緊急事態という建前があるので、政治力で決まった可能性はある」
福島市の中心部から外れた場所に建つ、プレハブ風の長屋。その一角に、ユースビオ社の事務所はあった。郵便受けの社名は、白いテープで隠されている。窓には、公明党・山口那津男代表のポスターが貼られていた。
引き戸を開けると、段ボールが雑然と置かれた殺風景な狭い部屋の奥に、青いジャンパーを着た初老の男性がひとり座って、電話対応していた。声の調子から樋山社長だとわかったが、表情は険しい。殺到する取材陣に嫌気がさしていたのだろう。
数時間前、電話で話したときは、会議で忙しいと言っていたが、他に人の姿はなかった。今流行りのリモート会議だったのか。
電話を終えた樋山社長に、質問をしようとしたが、もう取材は受けないと決めたと言う。多額の税金が投入されている案件には、説明責任はあるはずだ。しかし、食い下がる私に対して、樋山社長はけんか腰だった。
ついには、「警察を呼ぶぞ!」というセリフまで飛び出したので、客観的な事実を確認する方針に変えた。
自宅の土地と建物は一時競売にかけられていた
樋山社長の自宅に関して調べると、自宅の土地と建物は、競売物件として4月9日に公示され、5月に入札される予定になっていた。しかし、4月24日付で債権者から競売を取り下げられていたのである。
布マスクに関連する動きを時系列で並べると、奇妙な偶然が重なっていた。
9日 ユースビオ社・樋山社長の自宅が競売公示
10日 福島瑞穂議員(社民)が、マスク納入業者の開示を厚労省に要求
同日 ユースビオ社が、登記の変更申請
17日 布マスクの配布スタート
23日 ユースビオ社が、福島県にサージカルマスク2万5000枚を寄付
公明党の伊藤達也県議が「知人の厚意で寄贈」とフェイスブックに投稿
24日 納入事業者として、政府が伊藤忠商事、興和、マツオカの3社を公表
同日 樋山社長の自宅・競売取下げ
27日 納入業社として、ユースビオ社と横井定を公表
28日 国会で、加藤厚労相が「ユースビオ社の輸入業務をシマトレーディング社が行っていた」と答弁
同日 ユースビオ社の登記・変更完了、「輸入業」などが追記される
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