滝沢カレン節炸裂の「料理本」劇的ヒットの必然 レシピがこんなにも文学的になるなんて

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実際、レシピの世界は変わり続けている。昭和の時代の料理家は、キャラクターが立った江上トミ、辰巳浜子、小林カツ代などテレビで人気を博す人はいたものの、レシピを考案する職人のような扱いだった。

1980年代、ライフスタイル誌の『LEE』が、料理家のライフスタイルを紹介するようになる。1992年に栗原はるみが自らの生活を綴った『ごちそうさまが、ききたくて。』がミリオンセラーとなり、料理家のライフスタイルも憧れの対象となった。

数字に頼りすぎることの「弊害」

2000年代にインターネットが普及し、ブログが登場すると、山本氏のようにレシピブログで自らの生活を綴り、レシピを紹介する人たちが人気を博すようになっていく。2008年に始まった料理番組のレシピ本『男子ごはん』も、一言解説を加えている。メモ書きをしたノートスタイルの書籍の流行もあり、近年はつくり方にアンダーラインを引くなど、説明が多いレシピ本が多くなっている。

2010年代半ばには料理動画が人気となり、真上から何をどのぐらい入れるのか写真で伝えるレシピ本も登場。

インターネットメディアから刺激を受けて、レシピの世界は変わってきたのだ。『カレンの台所』も、滝沢氏がインスタで発信したことがきっかけで生まれた。

本で料理のつくり方を正確に伝えるには限界があるが、レシピ本の制作者たちは、読んだだけで分かる世界を目指し、さまざまな工夫をしてきた。数字で分量や時間を伝えるようになったのは戦後だが、その方法が定着しているのは客観的で誰にでも伝わる表現だからだ。数字に頼り過ぎて目の前の料理をちゃんと見ない、という弊害も生まれた。

「料理教室で聞くと、あまり味見をしないという人が多いですね」と山脇氏は言う。「たとえば砂糖は上白糖と精製していないきび糖だと、甘さが2割くらいちがってきます。塩も、醤油も、味噌も、使う調味料でレシピとは味が違ってきます。違ってもいいんですよね。あくまでレシピは目安。あとは味見をして、家族や自分の好きな味にして欲しいと思います」。

レシピはあくまで基準であり、その通りに作ることが正解とは限らない。自分好みに変化させることも大切なのだ。「味見をすれば自分の好きな味に仕上げられるから、味見が料理上手への早道です、と教室ではいつも言っています」と山脇氏。

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