グローバル経済から中国を分離すべき根本理由 コロナ危機後に「世界最高の知性」が訴える
グリフィス:ハードパワー(軍事力や経済力的な威嚇に基づく国力)についてうかがいます。あなたは歴史家として、それについてのたっての識者だからです。
世界のハードパワーの分布を考えると、全世界の軍事費の55パーセントはただ一国、アメリカで支出されています。それは現状の体制が維持されることの証拠ではありませんか。なにせハードパワー面でのアメリカとその競争相手は、大人と子どもとしか言いようがないのですから。
戦後の平和はアメリカの突出した軍事力によるもの
ファーガソン:ちょっと用語に気遣うべきかもしれませんね。さもないと何事も、アメリカの軍事費も含めて、リベラルな国際秩序のためとしてしまいかねませんから。
もし1945年から後の戦後世界がそれに先立つ半世紀よりも平和であったとしたなら、その主たる理由は国際連合が創設されたからではなく、ましてや欧州連合ができたからでもありません。主たる理由は、アメリカが1920年代や30年代よりもずっと深く関与、引率したことです。
アメリカの軍事予算をリベラルな国際秩序の一面を表す指標とするなら、言葉が用をなしません。アメリカの防衛予算が高止まりしている理由は主に、革新派ではなく保守派の政治家のおかげだからです。もっとも「国際」的とは言えるでしょう。アメリカは同盟関係と軍事駐屯によってパックス・アメリカーナを課しているからです。
そして「秩序」という部分も成り立ちます。しかしそれは、アメリカという最強国家一国に立脚した秩序です。リベラルな国際秩序という用語に意味を持たせるには、定義が必要でしょう。
20世紀後半から21世紀に入ってからの四半世紀の相対的平和を、リベラルな国際秩序のお陰とすることはできません。その真の功績がアメリカという一国家に帰するものであり、アメリカの強さは主に保守派の政治家が防衛費を割合に高止まりさせなければならないと主張しているからだとするならです。
それもある種の秩序体制ではありますが、一歩引いて考えてみると、現世紀の1つの際立った特徴は、パックス・アメリカーナの崩壊であると思われます。その正統性の、そして有効性の喪失です。それはイラクで最も明らかであり、アフガニスタンは言うに及びません。
このように、私には国際秩序そのものが目の前で崩壊しつつあるように思われます。1945年から後、パックス・アメリカーナは大きな物語だったと思います。ですが9.11から後の大きな物語は、その崩壊だと思います。
グリフィス:最後にもう1つ議論したいと思います。閉じられた体制と開放的な体制についてです。リベラルな国際秩序の賛成論者は、その強みの1つは開放的であることだと言います。世界中に広がるネットワークに基づいているからであり、それは過去数十年にわたってうまく機能してきたはずだ、と。
一方、競争相手や他のやり方は閉鎖的な体制で、たっての例は独裁的国家である中国です。では、歴史上、こうした開放的な体制が閉鎖的体制に敗れた例はありますか。そして開放的な体制がつねに勝つのだという考えに与さない理由がありますか。
ファーガソン:リベラルな国際秩序と、中国をはじめとする他の独裁的体制との間に一線を画するのなら、読者を混乱させることになると思いますよ。なぜなら、事実としてリベラルな国際秩序は中国のような閉鎖的社会にとても強い追い風になってきたからです。
そして実際、1980年代から後のグローバリゼーションの主たる受益者は中国のような国です。貿易については国際ルールを取り入れ、資本移動についても部分的にはそうしたものの、民主主義については一切の妥協をしませんでした。これは現代のパラドックスですよ。