PCR躊躇しまくった日本がこの先に抱える難題 市中も院内も感染蔓延、割を食うのは国民だ

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また、院内での高齢者の感染と市中の若者の感染を一緒くたにしている点にも疑問がある。4月24日現在の中国の感染者数は8万4338人で、死者数は4642人。人口規模が10分の1の日本で、どうやったら40万人の死者が出るのだろう。私は医学的な見地から大いに問題がある解析と考える。本来、1つの仮説として、医学会で議論すべきレベルのものだ。

ところが、このようなレベルの推計が国策を決める根拠となっている。感染状況に関する前提条件が曖昧ななか、緊急事態が宣言され、飲食店経営者など多くの国民が塗炭の苦しみを味わっている。

では、どうすればいいのだろうか。ポイントは感染症法の解釈だ。新型コロナウイルス対策は、感染症法に基づき実施されてきた。この法律を従来通り、新型コロナウイルスに当てはめた。

専門家会議が認識を示しているように、新型コロナウイルスの特徴は無症状の人が多く、彼らが周囲に感染させることだ。致死率は低いが、感染者が多いため、死者数は増える。かつて、日本は、このような感染症と対峙したことがない。

鎖国を続けてきた日本が本格的に伝染病対策に乗り出したのは、明治時代になってからだ。明治30(1897)年に制定された伝染病予防法が、その基本である。感染症法は平成10(1998)年に伝染病予防法が廃止され、その後を継いだものだ。

「クラスター対策」で対応できた過去の伝染病と違う

このような法律が念頭においてきたのは、コレラやチフスなど古典的な感染症だ。このような伝染病は潜伏期が短く、下痢など特徴的な症状を呈する。患者の診断は容易で、見落とすことは少ない。感染者を隔離し、周囲をスクリーニングするという「クラスター対策」で対応できた。

この方法は新型コロナウイルスには通用しない。クラスターをいくら探しても、すべての患者を網羅することなどできないからだ。

厚労省は1月28日に新型コロナウイルスを感染症法の「2類感染症並み」に指定した。感染症は、感染力と罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性によって、「1類感染症」から「5類感染症」までの5段階に分類される。「1類感染症」と「2類感染症」は入院(都道府県知事等が必要と認めるとき)しなければならない。「3類感染症」以下は就業制限等の措置が取られる。

新型コロナウイルスはSARS(重症急性呼吸器症候群)と同じ2類感染症に分類された。新型コロナウイルスは感染力が強く、感染者の2割前後が重症化するため、隔離するのが望ましいとの判断からだろう。

一方で、やっかいなことに8割が軽症・中等症あるいは無症状とされる。その点について1月24日には、香港大学の研究者たちが英『ランセット』誌に、無症状の感染者の存在を報告していたが、厚労省が明確な認識を表明したのは1月30日。武漢からの帰国者の中に無症状の感染者がいることが報告されたのを受けて、緊急記者会見を開き、「新たな事態だ。潜伏期間にほかの人に感染させることも念頭において、対策をとらねばならない」と説明した。

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