PCR躊躇しまくった日本がこの先に抱える難題 市中も院内も感染蔓延、割を食うのは国民だ

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にもかかわらず、従来の法的措置を杓子定規に当てはめたことで、感染症法で規定していないPCR検査の拡大や、自宅やホテルでの療養のハードルを上げた。たとえ無症状であっても、PCR検査で感染が判明すれば、強制的に入院させるしかなくなる。それ自体はいいが無症状者・軽症者で病床が埋まってしまうと、重症者・重篤者への対応が難しくなる。

専門家会議が「PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態で踏みとどまっている」と主張するのは、このような背景があるからだ。ただ、これはあくまで厚労省の都合だ。

当初の判断には疑念が残る。ところが、このことはほとんど議論されない。日本の経験不足によるものだがこれを糧にしなければ、また同じことを繰り返す。

韓国が早期からPCR検査を実施したのは、同じコロナウイルスであるMERS(中東呼吸器症候群)の感染を経験しているからだ。知人の韓国政府関係者は「PCR検査をしないと対応できなくなる」と早期から言っていた。

では、どうすればいいのか。新型コロナウイルスに対応するには、病院や介護施設を守りながら、一般人が免疫を獲得するのを待つ「集団免疫」作戦か、緊急事態宣言を出し、早期に感染を収束し、ワクチンの開発を待つ「ロックダウン」作戦しかない。

前者の代表はスウェーデン、後者は中国だ。前者は経済的なダメージは小さいが、感染管理は難しい。後者はその逆だ。

民主主義の伝統が根付く北欧で「集団免疫」作戦が採択され、当初、イギリスやドイツもこの方針を採ったのは、欧州の歴史が影響しているのだろう。一方、共産党一党独裁の中国は「ロックダウン」作戦を採りやすかった。

日本の対応はどうか。クラスター対策に固執し、PCR検査を抑制して、病院や高齢者施設を守らなかったため、市中に新型コロナウイルスを蔓延させてしまった。

これまでの感染者数の推移もどこまで正確なのか

問題は、これだけではない。PCR検査を十分に実施できていないので、これまでの感染者数の推移も正確にはわからない。クラスター対策班のシミュレーションは、もし、前提が間違っていれば、全く意味がなくなってしまう。このような推計を基に、緊急事態を宣言するのは危険ではなかったか。また、検査が十分ではないのだから、緊急事態の効果の評価についても、額面通りに受け止めていいのか疑問は残る。

新型インフルエンザ等対策特措法が改正され、新型コロナウイルス対策の司令塔が官邸と厚労省の二頭立てになると、メディアの関心は官邸へと移った。厚労省は、それまで否定してきた抗体検査やドライブスルーPCRなどを推し進めている。

このような対応は国民にとって結構なことだ。ただ、改正特措法以降、感染者が急増し、緊急事態宣言となった。これが本当の患者増なのか、見かけ上なのか、あるいは両方の影響があるのかは、もはや誰も判断できない。ところが、このような議論は誰もしない。

新型コロナウイルスの蔓延を声高に叫ぶことで、官邸は権限を強化でき、厚労省にも予算がつく。割を食うのは、失業する国民だ。これでいいのだろうか。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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