ずさんな報告でも第三者委員会が権力を握る訳 信頼性に乏しい報告書が量産され続けている
まさか大企業や金融機関が倒れるようなことはないだろうと思っていた人々は、日本経済がいかに深刻なところに追い込まれているのかを、初めて思い知らされたのである。国際的にも「暗黒の11月」と称された変事の中でも最も衝撃的だったのが、旧四大証券の一角を成す山一證券の自主廃業の発表だったと言えるだろう(結果的には自己破産)。
のちに「隆盛」を誇るようになる第三者委員会のルーツは、ほかならぬこのとき山一證券に設置された「社内調査委員会」だったのである。設置の主目的は、新聞報道などで2000億円とも言われた、「簿外債務」すなわち損失隠しの実態究明だ。これが山一を倒した最大の病巣だった。
「社内調査報告書」の形で対外的に報告
同委員会は、委員長には当時の嘉本隆正常務取締役が就き、その他取締役など社内の人間が7名、途中から社外の弁護士2人が加わるという形だった。だから、「名実」ともに、日弁連ガイドラインの第三者委員会には該当しない。
だが、この社内調査委員会が、例によってお手盛りの報告でお茶を濁すだけの組織だったかといえば、そうではなかった。同委員会は、翌98年4月に「社内調査報告書―いわゆる簿外債務を中心として―」を公表するのだが、実は社外弁護士の1人として調査に携わったのが、現在、われらが第三者委員会報告書格付け委員会の副委員長を務める國廣正氏である。
同氏は、著書『修羅場の経営責任』 (文春新書)で、同委員会には 2つの意義があった、と述べている(198~199ページ)。「1つは、山一の破綻に至る事実関係を、第三者的観点から、詳細かつ徹底的に調査、検証し、これを『社内調査報告書』という形で対外的に公表したということである。これは当時としては前例のない試みだった。
社内調査報告書の公表は、リスク管理不在、先送り、隠蔽、責任回避、官との癒着という巨大証券会社の経営実態を白日の下に明らかにした。加えて、本業そっちのけで財テクに走り、損失が発生すれば自分が『被害者』だとして損失補填を求める自己責任意識の欠如した顧客企業、『見て見ぬふり』をしながら最後には梯子をはずして引導を渡す『官』の実態も明らかにした。社内調査報告書は、うわさや評論としてではなく『事実』として、これらのことを明らかにした点に意味がある」
「もう一つの重要な意義」は、『誰が会社を潰したか』(北澤千秋著、日経BP社)からの引用である。「『会社がすでに破綻しているからこそ日の目を見た調査報告書』『会社が潰れる前にこうした自浄作用を発揮すべきだった』という指摘もその通りである。
それでも、企業が社会的存在であることを自覚し、自らの手で破綻の原因と経緯を明らかにするという説明義務を果たそうとした姿勢は、素直に評価すべきである」
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