精神を病んでしまった経済学を救う術はあるか もしユングとフロイトが経済学の魂を診たら
本書ではフロイトとユングの両方の知識を用いた。そのほかに、彼らの学問上の後継者や人類学者、社会心理学者、精神医学者、哲学者、民族学者らの知識も参考にした。こうした多様な分野のたくさんの仲間が専門家として本書に所見を述べてくれなかったら、おそらくこの本が世に出ることはなかっただろう。
経済学が抱えている5つの疾患とは
経済学には精神分析が必要だろうか? 本書の考えによれば、少なくとも精神療法的な評価は必要だろう。それは、長い省察が必要な作業だ。現在の経済システムが大きな進歩をもたらしたのは否定しようもないことだし、そのシステムに付随する学問のおかげで人々が巨大な富を手にできたのも事実だ。
だが、それでも私たちが指摘したいのは、過去数年の間に経済システムに病気のような症状が生まれ、それがもはや見過ごせない域まで進んでしまったことだ。体系的に見ると、そこにはサディズム、ナルシシズム、そしてサドマゾヒズム的な要素が認められる。
臨床的な手がかりをもとにすると、大きく分けて次の5つの精神疾患が認められるだろう。それらは現在の経済の一部であるだけにとどまらず、もはや経済を動かしているのだ。
1. 現実認識障害:快楽原則のいわば病的な子孫。現代の欲望産業および消費財産業の売り上げのますます多くの部分は、これらによって生み出されている。
2. 不安障害:現実を極度に否定的な形にゆがめて見せ、人に異常な行動をとらせる。不安はつねに、ビジネスにおける非常に重要な一分野だ。危機の時代にはとくにそれが顕著になる。
3. 気分障害/情動障害:本書でとくに扱うのは、躁とうつを行き来する双極性障害だ。景気の変動や、好況と恐慌の急速な変転などにこの症状が認められる。