コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を

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コロナ危機はどうやら短期間では終息しそうにない。感染症専門家会議の医師の見解を聞いていると、経済活動の停止期間は限定的で済む(あるいは経済的な理由から、そうせざるをえない)かもしれないが、感染の第2波、再流行などのおそれもあり、従来とまったく同じ活動に戻れるとは思えない。

ポストコロナの中長期を見通してみる。人々は世界のモノやサービスを享受することに慣れているため、貿易量はある程度回復すると考えられるが、企業が安い労賃を求めて海外に拠点を置くオフショアの動きは縮小し、海外拠点を減らす方向になることは間違いない。

国際分業による効率性を享受できなくなって、コストがかさむことが懸念されるものの、一方で、テレワークの重要性や効率性が認識されることで、5G投資などが促進されるだろう。自治体行政や企業のITインフラの整備が飛躍的に進めば、ある程度の生産性向上を実現できるのではないか。

そうなれば、企業の拠点や外注先が海外から国内に戻ってくるリショアリングの動きが広がる。野村総合研究所の森健上席研究員は、さらに「国内の地方部に拠点を設ける“ニアショア”あるいはサテライトオフィスを検討する企業が増えるのではないか。IT企業ではすでに徳島県などでそれが進んでいる」と指摘する。

そうなれば、今度は企業側やそこで働く従業員などから、自治体への権限委譲を後押しする動きも強まるかもしれない。住民自治の意識が高まるとまでいったら、期待しすぎだろうか。

内需重視で労働分配率の向上を実現できるか

リーマンショック後には、先進国の潜在成長率が低下する中で所得格差の拡大が問題とされるようになった。その中でやり玉に挙がったのは、IT革命とグローバリゼーションである。人が機械に代替されることによる労働分配率の低下や、GAFAに代表される企業やその経営者が勝者総取りとなるような所得の歪みが、グローバリゼーションとともに、世界的に拡大し増幅されたという見方だ。

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グローバリゼーションへの批判は、移民や難民を排撃する運動につながり、トランプ大統領の誕生やイギリスのEU離脱、EU域内での極右政党の台頭などの現象を生んだ。一方、リベラルな人々は大企業が安い労賃を求めて新興国に工場を作り、現地の人々を搾取していることや、地球規模での環境破壊が進んだことを批判している。

日本は欧米に比べれば、所得格差が大きくないほうだが、非正規雇用の拡大が問題視されてきた。しかし、テレワークなどで時間に縛られない働き方が広がれば、同一労働同一賃金の実現はしやすくなっていくだろう。

欧米と比べた日本の問題は、1990年代末のバブル崩壊以来、春闘における賃上げ交渉が機能しなくなってしまい、労働分配率が下がったことだ。日本では人口が減っていくので経済成長しない、という思い込みが流布している。そのため企業は内需に期待せず、賃上げにも及び腰で、成長期待の持てる海外に投資を続けてきた。しかし、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)の減少率は年率2%以下であり、就業率の向上と生産性上昇によってカバーすることは可能だ。

日本総合研究所の山田久副理事長は「グローバル化の減速で外需に依存する度合いが低下するなら、内需拡大に注力する必要がある。付加価値生産性の向上、平均販売価格の上昇、賃金の引き上げの好循環を形成することによって、質的成長は可能になる」としている。今は感染拡大をくい止めることが優先する厳しい局面だが、中長期の潮流も展望しておくべきだろう。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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