コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を

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BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「新型コロナウイルスをきっかけに、国境の内側では人々が連帯に目覚め、強い求心力が働くが、国境の外側に対しては強い遠心力が働き、国際的な分断が広がるのではないか」と指摘する。

実際、日本でも世界各国でも現在、グローバルな政策協調に人々はほとんど期待していない。注目されているのは自国の政府が発信するウイルス封じ込めのための対策と経済活動の停止による失業、倒産、所得の減少に対する経済政策だ。しかし、発展途上の独裁国家は別にして、かつてのような権威主義的なナショナリズム(国家主義)に回帰するわけではないだろう。

民主主義陣営においてはネット上で日々、政府の政策に対する意見が交換されている。例えば日本では、安倍首相の「全国民にマスク2枚を配布」する政策に批判が高まり、雇用調整助成金や現金給付の手続きの煩雑さが問題視されている。アメリカのトランプ大統領も2兆ドルをぶち上げた経済対策がさまざまな批判にさらされている。共産党一党独裁の中国といえども、政府批判を封じ込めておくことはできないようだ。

また国によって医療制度の違いや、感染症の専門家の見解の違いもあって、新型コロナウイルスとの闘い方は大きく異なる。その是非をめぐっては、専門家も一般の人も膨大なコメントをネット上に送り出している。その批判には政権の担い手も敏感だ。

金融危機や自然災害と違って、すべての人が身近に切実に感じている危機であり、インフォデミック(情報の感染拡大)ともいえる状況が出現している。根拠のないデマや誹謗中傷が広がっていることにも注意が必要だが、よい面を見ればインターネット民主主義が出現しており、悪い面を見れば、政治のポピュリズムがますます強まっていくのではないか。

自治体が注目されローカルシフトも始まる

さらに、今回のコロナ禍では、私たちがもっと自らの生活に近い知事たちの決断や行動に一喜一憂する毎日になったことが顕著な変化だ。小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事が政府と渡り合う姿にネット上では支持が集まっている。

これは世界的に起きており、アメリカでも大統領選の最中ながら、存在感を放つのはトランプ大統領でも対抗馬の民主党大統領候補のバイデン氏でもなく、奮闘するアンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事の姿だ。

今、日本で問題となっているのは、市区町村が生活者にとって行政の直接の窓口であるにもかかわらず、必要な決定権限や財源が地方自治体には付与されていないことだ。

最も重要な問題である緊急事態宣言後の7都府県の措置は決定に時間がかかり、人々の不安が募った。休業要請の方針がまとまらなかったからだが、休業を要請する事業者への補償をめぐって国との調整が難航したためだ。今後、自治体への権限委譲が再び大きなテーマとなってくるだろう。

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