MacBookが世界中同じ角度で展示される深い訳 背景には行動経済学の視点がある

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私が学んだデザインスクールでは、人の心理まで勘案した経済学である行動経済学も学んだのですが、これは行動経済学で「ナッジ(nudge)」と呼ばれる考え方です。

ナッジとは、「ヒジで軽く突く」という意味で、科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略を意味します。

出来上がった製品を店に並べるとき、何となく置いてあるだけでは客は興味をそそられず、素通りしてしまいます。客が思わず立ち止まって手にするようなディスプレイはないかを考えることがとても重要なのです。

それだけではなく、例えばワイン売り場でフランスの曲をかけたらフランスワインを買うという実験からも、店のBGMも時に絶大な効果をもたらすのだとわかります。

マーガリンはなぜ爆発的に普及したのか?

また、ほかにも消費者の無意識に働きかけ成功した例としてマーガリンの例があります。

スーパーに立ち寄る度に、空っぽのバター売り場を見て、隣に置いてあるマーガリンに手を伸ばしたことのある人も多いと思いはず。このとき、人は無意識のうちに「マーガリンはバターの代替である」という前提を持っています。

しかし、マーガリンは19世紀初めに誕生したものの、約100年にわたり、バターの代替としては認知されませんでした。どんなに味をバターに近づけるように努力しても、売り上げは伸びませんでした。

そんなとき、臨床心理学者のルイス・チェスキンは、とあるマーガリンメーカーから相談を受け、どうすればマーガリンが売れるのかを検証することになりました。

彼が考えたのは、マーガリンの色を黄色くすること。今となってはマーガリンといえば黄色いのが当たり前ですが、それまではマーガリンの色は白く、バターとの見た目が違いました。

チェスキンはランチパーティーを開き、2つの実験を行います。1つは、あるグループにはバターの小さな塊を提供し、違うグループには色を黄色に変えたマーガリンの塊を提供して食べてもらう実験です。どちらのグループも「あのバターはおいしかった」と答え、味の評価にまったく差は出ませんでした。

もう1つの実験では、黄色のバターと、色を白くしたバターの食べ比べを行いました。すると、黄色のバターをおいしく感じると答えた人が多い結果になりました。2つの実験から言えるのは、人はバターやマーガリンの味そのものに反応しているのではなく、色に反応しているということです。

この実験以降、マーガリンの色は黄色くなり、マーガリンのアメリカにおける市場規模は数年後にバターを超えました。

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