北朝鮮が「感染者ゼロ」と豪語する裏の事情 アメリカの制裁緩和の動きは追い風になるか

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東洋経済解説部のコラムニスト7人がそれぞれの専門的な立場からお届けする、ニュースの「次」を読むための経済コラム。画像をクリックすると一覧にジャンプします

この時期、新型コロナウイルスの拡散は北朝鮮にとって思わぬ幸運となったのかもしれない。その最たるものが、米韓合同軍事演習の中止だ。毎年春に実施されている軍事演習だが、北朝鮮はこれを安全保障上の最大の脅威とし、これに対抗するために国内でも相応する態勢をとっていた。これは北朝鮮側には人的、経済的な大きな負担となっていた。

新型コロナ拡散は北朝鮮には好機にもなる

さらに、北朝鮮に対するアメリカ主導の経済制裁が続いているが、新型コロナウイルス対策という人道的な理由で、医療支援品を北朝鮮に対する制裁対象品目から解除するという動きがアメリカのトランプ政権から出始めた。北朝鮮にはすでに、ロシアや中国、国際民間支援団体などから診断キットや防護服、消毒剤などが途切れることなく搬入されている。とはいえ、トランプ政権の動きを契機に、北朝鮮にとっては膠着する米朝、南北関係の突破口を開けようとすることは十分にありうる。人道に関わる物資を中心に、重くのしかかる経済制裁の緩和を狙う可能性がある。

一方で、新型コロナウイルスの拡散による世界経済の悪化は、北朝鮮にも悪影響を及ぼす。北朝鮮の貿易構造をみると、これまで最も重要な輸出品目は石炭や鉄鉱石などの地下資源の輸出だ。公式的にはこの数年、これら地下資源の輸出は減少してきたが、それでも取引はなされてきた。しかし、今回のコロナ感染拡大で世界の経済活動が萎縮すれば、これら地下資源の需要も減り価格も下落する。また、北朝鮮は外国へ労働者を派遣しているが、彼らの賃金が下落し、職自体も減る可能性が出てくる。外貨収入源が細るしかない、ということだ。

北朝鮮もこのような状況を厳しく認識しているからこそ、「正面突破戦」をスローガンに、連日、自国民に経済活動の活性化を訴えている。「正面突破戦」とは、2019年末の朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会で明らかにされた「北朝鮮を取り囲む難局を有利な状況へと変化させるための革命的な闘争戦略であり、前進していくための方法」とされている。このため、「自力更生」を訴え、自国の物的・人的資源を有効に活用して外交・経済的難関を克服していこうと、国営メディアを中心に国民を鼓舞しているのが現状だ。

そのような取り組みが生み出した成果を、北朝鮮側もアピールしている。だがそれは、裏返してみると、問題解決がまだ不十分であるからこそ、一部の成果を取り出してさらなる改善を促しているということだ。中国の感染状況が落ち着いてくれば、北朝鮮との交流が再び活発化するだろう。それが北朝鮮の動きによい影響を与える可能性はある。ただ、それがいつになるかはまったく見えない。

4月10日の最高人民会議で何が話し合われ、どのような方向性が打ち出されるか。今年の北朝鮮の動きを予測するうえで、一つの節目になりそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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