1400万人の米国人が美容整形に走る深い理由 理想化された女性美・男性美に苦しむ現代人
不平等の拡大で社会的評価という脅威に直面した私たちは、板挟みの状態に追い込まれている。不安症やうつ病に陥るか、それとも自己誇示や自己愛を支えにして必死に出世の階段をよじ登るかだ。
こうした二者択一をめぐる葛藤がいかに激しいかは、統合失調症や躁うつ病に苦しむ人々がしばしば誇大妄想にとらわれることからも明らかだ。
それらの症状を持つ人々の約半数は、自分は実際に有名人であり、政治や宗教の指導者、著名な多国籍企業のCEOであると信じている。そんな妄想を抱くのは、自尊心の低下やうつ病への自己防衛かもしれない。
しかし架空のアイデンティティーを作り上げることで富や名声への願望と惨めな現実との矛盾を解決しようとすれば、最後には大きな代償を支払わざるをえなくなる。
より美しく、よりマッチョにと駆り立てられる
ジャーナリストのレオラ・タネンバウムは、女性が美容整形手術を受ける理由を、顔や身体の“欠陥”だと思われる部分を除去することで、限界はあるにしても、理想の姿に少しでも近づくためだとしている。
女性に対して一方的に順応を迫る現代の圧力も、ある意味で似ている。雑誌、広告、映画、ファッションショーなどに毎日登場する女性の写真や映像によって、女性は理想に向けて自らを高め、周囲から評価されるようにならなければならないという強迫観を植え付けられる。思春期に達した少女には、こうした圧力の効果がてきめんに表れる。
ミレニアム・コホート・スタディーによれば、英国で情緒不安を抱える――両親の報告による――少女の割合は、11歳では12%だが、14歳になると18%に上昇する。自ら症状を報告した14歳の少女の中で、うつ病に苦しんでいると答えた割合は、24%にも達していた。
男性も同様の脅威にさらされている。映画、テレビ番組、ミュージックビデオ、男性雑誌などでは、肩幅があって、均整がとれて、筋骨たくましい姿が、男性の理想像とされている。
野外広告やテレビ画面に映し出される理想化された女性美のイメージからのプレッシャーを受けてきた女性と同様、男性もまた現在では、下着や自動車のコマーシャルで、数段に割れた腹筋や大きく膨らんだ上腕二頭筋といった、筋骨たくましい男性の姿を絶えず見せつけられている。しかもそれらは実物よりもかなり誇張されたものだ。