培養肉がこの先「有望」な食材になりうる事情 環境負荷や食料自給の観点からも期待集まる

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世界の人口は途上国を中心に増加が続いており、100億人を超す日もそう遠くないと考えられている。地球への負荷は甚大になっていく。

それでも全世界の人間に対して肉を食べずに、菜食主義者やビーガンになれというのは無理な注文だろう。菜食主義者やビーガンにしても植物由来のハンバーガーや代用肉を食べている。また精進料理にしても海苔や山芋を使ったものや、ウナギの蒲焼もどきなどもある。肉を食べたい、動物性タンパク質を欲するのは人間の摂理である。菜食だけだと健康上の偏りも気になる。

その点においても、環境負荷が少ない培養肉に注目が集まっている。動物をまったく使用しないわけではないものの、培養肉の生産が軌道に乗れば、畜産の1割以下のリソースで同じ量の肉や革などが生産できると言われている。培養肉の原料としてはタンパク質を多く含んでいる昆虫類を使用することも可能だろう。地球の環境を維持し人類が生存するために、畜産の拡大を抑制することも必要になってくる。

有事に備えた自給率の向上にも

培養肉は安全保障や軍事にも大きな影響を与えそうだ。例えば日本は多くの畜産品、飼料を数多く輸入しているが、国内に培養肉の生産拠点をつくれれば輸入品ほどの高い関税を払わなくてもよくなり、消費者は安価に酪農製品を買うことができる。有事に際しての食料自給率が高くなることで安全保障上も有利だし、国内で雇用も生み出せるかもしれない。

培養肉を開発、生産する技術は再生医療の技術と同根であり、培養肉の産業化が進めば、筋肉や内臓、皮膚、骨などの人体の再生にも大きな進歩をもたらす可能性がある。

余談になるが、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、宇宙船内で大便を食料に転化するという技術の開発に補助金を提供している。細菌によって糞便を分解して別の微生物へと変貌させる。糞便の分解で放出されたメタンの影響で大量のメチロコッカス・カプスラタスという微生物が生成される。

これは家畜飼料に使用される微生物で52%がタンパク質で、36%が脂肪である。培養肉の原料には適しているだろう。糞尿に限らず、生ゴミ、廃油などを食品としてリサイクルできるのであれば、食料庫のスペースは大幅に減るし、食肉などを保管する冷蔵庫やその電力も低減できる。特に潜水艦では有用な技術となるだろう。

現在商船、軍艦問わずゴミや糞尿の洋上廃棄は禁止されている。これらの「不要物」を船内に保管して寄港地で処分しなければならない。その費用もかかる。これら「不要物」の保管場所も、陸上での処理費用も必要なくなる。これは地上の駐屯地、戦時や海外のPKOでも重要だ。

肉の補給が必要なくなれば、冷蔵施設や冷蔵運搬車などの兵站負担を大幅に減らせるし、糞尿の処分も不要になる。当然に使われる燃料も大幅に削減できる。もっともこれが実現するのはかなり先の話だろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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