培養肉がこの先「有望」な食材になりうる事情 環境負荷や食料自給の観点からも期待集まる
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が猛威を振るっている。このウイルスが何を起源として人に感染したかは明確にされていないが、中国にはコウモリなどの野生動物を食べる習慣があり、それが原因になった可能性が指摘されている。
野生動物ではなくても鶏や豚などの家畜が原因となる疫病も過去には発生している。日本でも鳥インフルエンザや豚コレラの流行によって多くの鳥や豚が殺処分された。
こうした観点から今後、注目を集めそうなのが、人工的に製造できる培養肉(人工肉)だ。培養肉は生体の家畜から取り出した筋肉を培養して増殖させるものだ。東洋経済オンラインでも「ヤバすぎる!『培養肉ハンバーグ』の衝撃」(2014年12月27日配信)などで報じてきた。
近年は欧米を中心に研究や実用化が進んでおり、一部では商業化も始まっている。日本でも日清食品ホールディングスと東京大学が、約1センチ角のサイコロ状の組織を作製し、培養ステーキ肉の実用化に向けた研究を進めている。
肉の消費量増大に対応する
これまで代用肉として大豆などの植物由来のものが商業化されて久しいが、従来の製品は味や食感、栄養分が肉とは違う。対して培養肉は代用品ではない。肉だけではない、内臓、皮革、羊毛、卵、乳なども培養で供給することが可能になるだろう。さらにはマグロなどの魚肉のほかやクジラの肉の生産も可能になる。
どこの国でも豊かになって所得が上がれば肉食が増える。端的な例は中国だろう。21世紀になって中国の肉消費は爆発的に拡大した。例えば韓国は1970年代の1人あたりの牛肉消費量がわずか月7グラム程度にすぎなかった。韓国料理といえば焼き肉を連想するが、おいそれと焼き肉は庶民の口に入るものではなかったのだ。
現在多くの途上国では所得が上がり、人口も増えている。それに比例して肉の消費も急激に増えてきた。供給を支えるのは牧場や養鶏場だけではない。飼料となる大豆やトウモロコシ、大麦、えん麦などの穀物の栽培も増やさなければならない。大豆に関していえば私たち人間の食用となるものは世界の生産量の約1割程度にすぎない。後は飼料として消費されている。飼料にはまたイワシなどの海産物も多く使用されているが、これも乱獲によって減少が心配されている。
飼料の生産も含めて畜産は環境負荷が高い。ジャングルや森林が切り開かれて牧場や農地になるので環境破壊になる。また糞尿など排泄物の処理も費用がかかるだけではなく、環境負荷が大きい。
牛のおならとげっぷなども深刻な問題と指摘されている。牛1頭がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量は、1日160〜320リットルにも上る。畜産業は二酸化炭素の排出量も多い。また利用されるのは主として肉や革、一部の内臓で、多くの部位が廃棄される。その処理もまた環境負荷の原因となっている。
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