ラーメンには「1杯1000円の壁」があると言われている。どんなにおいしくとも、どんなに高級食材を使っていても、ラーメン1杯の価格が1000円を超えると食べ手は心理的に「さすがに高い」と感じてしまう。多くのラーメン店は原価や人件費などを鑑みながら、1000円という価格と戦っている。
そこに大西さんは風穴を開けようと挑戦を始めた。ベーシックな醤油ラーメンと塩ラーメンこそ1300円ながら、最高で3550円のメニューも作った。その名も、「黒トリュフチャーシュー味玉醤油Soba」「黒トリュフチャーシュー味玉塩Soba」。
思い切った価格設定をした理由は、原価を惜しまない上質な食材を使っているからだ。厳選された小麦を使った自家製麺や、スープに使う青森シャモロック、天草大王、名古屋コーチンなどの地鶏、そして香りの高い黒トリュフはラーメンの上にダイレクトに削って乗せる。
「昔は一般的な食材しかなかなか手に入らず、その中には粗悪なものが多かったですが、今はおいしい食材が手に入りやすくなりました。体にとっても安心で、かつおいしいものが作れる世の中になったので、『1000円の壁』は気にせずおいしいものを作っていこうとしています」(大西さん)
食べたい人に食べに来てほしいメニューを
かつてのイメージを引きずらずに、食べたい人に食べに来てほしいメニューを新たに作った。かつて巣鴨のお店でやりたいメニューに絞って受け入れられたのと、本質は同じである。
高級ホテルのザ・ペニンシュラ東京では昨年夏より、「博多一風堂」とのコラボによってルームサービスとして1杯3400円のラーメンを売り出した。大西さんがこれを直接意識したわけではないだろうが、大西さんは「庶民的なラーメンはもちろん必要ながら、高級なラーメンも両方共存することがラーメン界にとってもいいことである」と考えている。
「蔦」は日本では代々木上原1店舗に腰を据えながら、シンガポール3店舗、香港2店舗、マニラ1店舗、サンフランシスコ1店舗、タイ1店舗と海外にも展開している。
ただ、「蔦」だけでなく、今のラーメン店すべてに言えることとして、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界的に人の移動が制限され、外食産業に限らず経済全体が影響を受けているのは心配事項だ。客足のほか食材調達などにかかわる難局を乗り切ってほしい。
「蔦」は、これからもお客の味覚の進化を考えながら、つねに味をブラッシュアップし続けるという。ミシュランに認められてもその味を変えていく。ミシュランのためにラーメンを作っているのではなく、お客のために作っているからだ。移転も高級メニューもそのための一手にすぎない。
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