蔦が一つ星を手放し3550円ラーメンに挑んだ訳 世界初ミシュラン「星獲得」の店が突如移転

✎ 1〜 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 33 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ラーメンには「1杯1000円の壁」があると言われている。どんなにおいしくとも、どんなに高級食材を使っていても、ラーメン1杯の価格が1000円を超えると食べ手は心理的に「さすがに高い」と感じてしまう。多くのラーメン店は原価や人件費などを鑑みながら、1000円という価格と戦っている。

そこに大西さんは風穴を開けようと挑戦を始めた。ベーシックな醤油ラーメンと塩ラーメンこそ1300円ながら、最高で3550円のメニューも作った。その名も、「黒トリュフチャーシュー味玉醤油Soba」「黒トリュフチャーシュー味玉塩Soba」。

3550円のメニューが目玉だが、ベーシックな塩ラーメン(右、1300円)や「チャーシュー味玉醤油Soba」(左、1950円)などもある(筆者撮影)

思い切った価格設定をした理由は、原価を惜しまない上質な食材を使っているからだ。厳選された小麦を使った自家製麺や、スープに使う青森シャモロック、天草大王、名古屋コーチンなどの地鶏、そして香りの高い黒トリュフはラーメンの上にダイレクトに削って乗せる。

「昔は一般的な食材しかなかなか手に入らず、その中には粗悪なものが多かったですが、今はおいしい食材が手に入りやすくなりました。体にとっても安心で、かつおいしいものが作れる世の中になったので、『1000円の壁』は気にせずおいしいものを作っていこうとしています」(大西さん)

食べたい人に食べに来てほしいメニューを

かつてのイメージを引きずらずに、食べたい人に食べに来てほしいメニューを新たに作った。かつて巣鴨のお店でやりたいメニューに絞って受け入れられたのと、本質は同じである。

高級ホテルのザ・ペニンシュラ東京では昨年夏より、「博多一風堂」とのコラボによってルームサービスとして1杯3400円のラーメンを売り出した。大西さんがこれを直接意識したわけではないだろうが、大西さんは「庶民的なラーメンはもちろん必要ながら、高級なラーメンも両方共存することがラーメン界にとってもいいことである」と考えている。

店内にはこんなメッセージが(筆者撮影)

「蔦」は日本では代々木上原1店舗に腰を据えながら、シンガポール3店舗、香港2店舗、マニラ1店舗、サンフランシスコ1店舗、タイ1店舗と海外にも展開している。

ただ、「蔦」だけでなく、今のラーメン店すべてに言えることとして、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界的に人の移動が制限され、外食産業に限らず経済全体が影響を受けているのは心配事項だ。客足のほか食材調達などにかかわる難局を乗り切ってほしい。

「蔦」は、これからもお客の味覚の進化を考えながら、つねに味をブラッシュアップし続けるという。ミシュランに認められてもその味を変えていく。ミシュランのためにラーメンを作っているのではなく、お客のために作っているからだ。移転も高級メニューもそのための一手にすぎない。

井手隊長 ラーメンライター/ミュージシャン

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いでたいちょう / Idetaicho

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」「AERAdot.」等の連載のほか、コンテスト審査員、番組・イベントMCなどで活躍中。近年はラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」、「個人店の事業承継」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。テレビ・ネット番組への出演は「羽鳥慎一モーニングショー」「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」「5時に夢中!」など多数。その他、ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。著書に「できる人だけが知っている 『ここだけの話』を聞く技術」(秀和システム)がある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事