蔦が一つ星を手放し3550円ラーメンに挑んだ訳 世界初ミシュラン「星獲得」の店が突如移転

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開店当初は「醤油そば」と「煮干しそば」の2本柱だった。意欲作として作った醤油そばよりも、オーソドックスな煮干しそばばかりが出たので、煮干しをやめ、自分のやりたいメニューに絞った。

店内にずらりと並ぶミシュランの盾(筆者撮影)

地鶏を4種類使ったマイルドなスープに、魚介や乾物などのダシを重ねていった。調味料に頼った旨味ではなく、「ダシを重ねたもの」。これが海外にアピールできる1つの答えだった。当時は『ミシュランガイド』にラーメン部門はなかったが、結果として海外を意識した「蔦」のラーメンがミシュランに届いたのだ。

2014年の『ミシュランガイド東京2015』でビブグルマンを獲得、翌年の『ミシュランガイド東京2016』でラーメン店としては世界初となる一つ星を獲得したのは前述の通りである。

『ミシュランガイド』においてビブグルマンは星が付かなくても、「5000円以下で特におすすめの食事を提供している」お店に与えられる。そして星の位置づけは下記の通りだ。

一つ星:そのカテゴリで特においしい料理
二つ星:遠回りしても訪れる価値のあるすばらしい料理
三つ星:そのために旅行する価値のある卓越した料理

「蔦」の看板メニューとなった地鶏を使った旨味あふれるスープにトリュフオイルを合わせた醤油ラーメンは、ミシュラン一つ星の獲得を機にラーメンファンのみならず海外の観光客まで多くの人が訪れ、多くのメディアに取り上げられた。

一つ星獲得後、連日の大行列でパニックに

ただ、2015年にミシュラン一つ星を獲得した後は、連日の大行列でパニック状態となる。

近隣からのクレームが毎日のように寄せられ、整理券を配って時間を区切って列が長くならないようにするなど対応を講じるものの、それも限界を迎えた。大繁盛してしまったからこそお店を続けられないというパラドックス(逆説)に陥ってしまった。

地下は一定の湿度が保ちやすく、食材管理に適している(筆者撮影)

こうした情勢を受けて、大西さんはかねて移転を検討していたが、どうせならば新しい調理器具を導入し、よりよい食材を仕入れ、これまでのラーメンの常識を覆すようなメニューを出せるお店を作ろうと考えた。

新たに代々木上原でオープンした「蔦」は広々とした厨房にラグジュアリーな店内。3550円の超高級ラーメンもメニューにラインナップしている。物件は地下を選んだ。天候に左右されにくく、食材を管理するための湿度が一定に保ちやすいのが理由だ。

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