五輪1年延期で考える代表内定選手の処遇問題 4年かけた努力「幻の代表」を生まないために

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柔道男子60キロ級で代表に決まっている高藤直寿選手が25日にツイッターで「代表選考がやり直しになったらさすがに無理。一度(代表に)決まった選手と決められなかった選手が(再度)試合するのはメンタル面でアンフェア」と発信した。全日本柔道連盟は、すでに男女14階級中13階級で代表が決定しているが、選考を見直す可能性を示唆したことに対してだった。

延期決定となるまで、選手たち、とくに代表が決まっている選手たちは、今年の東京開催について、声を上げにくかった。何を言っても批判される可能性がある。延期決定となったことで、こうした高藤のように、代表に決まっている選手たちは声を上げていいし、気持ちを発信してもいいだろう。

日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は代表選考を白紙に戻す競技団体が出る可能性については、各競技団体の判断を尊重すると発言した。山下会長も1980年モスクワ大会ボイコットで柔道代表選手として最盛期のオリンピック出場を逃し、現在自身が会長を務めているJOCに抗議をしている。会長という立場と選手の立場、違いがあって言えないのだろうが、代表になって出られない気持ちはわかっているはずだ。

幻の代表をつくってはいけない

ただ、1年以上前に代表に決まると、課題も出てくるだろう。大きく考えられるのは2つ。1つはケガ。これからも代表選手たちは試合に出る。とくに格闘技系は注意しないといけない。代表がケガをした場合にどうするか。辞退して代表再選考をするのか。各競技団体は代表と確認しておかないといけない。代表に選ばれた選手にとっては1年間、自己管理をしないといけないので、長く感じるかもしれない。

2つ目は1つ年齢を重ねること。1歳違うことで、衰える選手、伸びる選手がいる。勢いがより必要な競技、経験がより必要な競技など競技特性もある。選手個々でもまた違うので、一律には言えないが、東京オリンピックを最後に競技引退を思っている選手にとって、1年は長いだろう。

4年待ったうえで、さらに1年の延期は代表にとっても試練の1年になるのは間違いない。外野がその気持ちを砕くことだけはしたくない。

4年かけてつかんだ代表の力は、信頼できる。「幻の代表」をつくってはいけない。

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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