コロナ倒産の連鎖防止「納税猶予」が有力な理由 今の経済活動にいちばん必要なのはマネーだ

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この考えは、格別目新しいものではなく、20世紀の初めにドイツの経済学者ゲオルク・クナップによって唱えられた貨幣理論(「チャータリズム」)の考えです。これは、「貨幣は素材の価値があるから通用するのではなく、国が価値とあると宣言するから通用する」という考えで、いまでは異端の考えではなく、多くの経済学者が認めています。

本稿の最初に述べたことも、この考えが正しいことを証明しています。

経済の緊急時には、金(きん)という素材価値があるものではなく、日銀券や銀行預金がマネーとして機能しているのです。

MMTの提案のどこに問題があるかと言えば、マネーを医療保険など恒久的な施策の財源に用いるとしていることです。

そのようなファイナンスが続けば、マネーが過剰に供給されてインフレーションがもたらす危険があります。MMTは、「インフレにならない限り」と言っているのですが、インフレーションが起きたとしても、医療保険制度を止めるわけにはいきません。この点が問題なのです。

MMTと似ているが、本質的に違う

ここで述べた納税猶予は、日銀が引き受ける公債によってマネーを増やすという意味で、MMTと同じ構造を持っています。ただ、その対象は、MMTのような恒久的施策ではなく、納税猶予という1年以内の短期的な施策です。

しかも、猶予された税収は、将来は支払われるのですから、中長期的な財政の健全性が損なわれるわけではありません。

市中でマネーが枯渇しているときにそれを供給しようというのですから、インフレーションを起こす危険もありません。

つまり、形式的にはMMTと同じ外観を呈しているのですが、本質的にはまったく違うものです。

なお、公的年金の積立金(2018年末で166兆円)も、それを株式に投資するのではなく、市中の流動性確保のために用いるべきです。具体的には、保険料の徴収を猶予すべきです。

仮に厚生年金の保険料を1年間猶予すれば、30兆円を超える流動性が供給されます。

税と合わせれば、GDPの1割を超える流動性が供給できます。地方税まで拡大すれば、さらに拡大します。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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