異業種連携モデルで海の向こうに出て行く−−古森重隆・富士フイルムホールディングス社長

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異業種連携モデルで海の向こうに出て行く−−古森重隆・富士フイルムホールディングス社長

中堅医薬企業・富山化学工業の買収を発表。投資総額は1000億円を超える。今後の最重点事業と位置づける医療分野のさらなる拡大に向けて、大きな賭けに打って出た。
(週刊東洋経済2月23日号より)

-- 医療分野で巨額のM&Aを決めたのはなぜでしょうか。

われわれのメディカル・ライフサイエンス事業は以前から重要な領域だ。1936年のレントゲンフィルム事業から始まり、デジタルX線画像診断システムや医用画像情報システムなどを展開してきた。ただ、これまでは病巣診断や健康診断など「診断」に偏っていた。今後は予防から診断、治療の全領域をカバーしていきたい。富山化学は当社の「治療」領域の中核企業に位置づける。

-- 数ある医薬企業の中で、富山化学を選んだのは。

富山化学は高い成長性を秘めている。創薬力には定評があり、インフルエンザやアルツハイマー病、リウマチ治療薬など、有力なパイプライン(新薬候補)を保有している。新薬の上市(発売)確率も高い。感染症、抗炎症、中枢神経など特定領域における世界レベルの創薬メーカーとして大きく飛躍させていく。(富士フイルム66%に対し、残り34%の富山化学株を保有することになる)大正製薬との連携で、セルフメディケーション(大衆薬)事業も成長させる。

-- 買収における短期的な狙いを挙げるとすれば何ですか。

鳥インフルエンザに対する有効性が期待されている「T−705」の早急な商品化と安定供給だ。これは「タミフル」とはまったく作用の仕組みが異なる画期的なインフルエンザ治療薬で、パンデミック(感染症の爆発的流行)を受けて、国内外から根本治療薬として期待されている。今後は生産、販売、資金面で全面的に支援していく。

-- 中長期の構想について、どのように考えていますか。

現在のメディカル・ライフサイエンス事業は3000億円程度だが、今後、総合ヘルスケアカンパニーとして約10年後をメドに1兆円規模にしていきたい。(そのためのM&A継続は)今のところない。まずは富山化学、大正製薬、当社の3社協業が重要だ。ただし、いろいろな可能性はある。

-- 医薬品事業の将来性を、どう考えていますか。

全世界で医薬品の市場規模は70兆円と聞いている。発展途上国ではいろいろな病気に悩む人がいる。一方、供給側には技術進歩があるので、中での競争は厳しいが、マーケットのポテンシャルは大きい。われわれは異業種であるから弱いのではなく、だから強いと言える。海外では画像診断事業のルートを持つなど、40年以上の経験がある。財務面でも強みがある。これらに富山化学の開発力、大正製薬の力を加味すれば、海の上を渡っていけるんじゃないか。また渡っていかないといけない。

(撮影:梅谷秀司)

こもり・しげたか
1939年生まれ。63年東京大学経済学部卒、旧富士写真フイルム入社。99年常務取締役、2000年社長就任。07年最高経営責任者。同年、NHK経営委員会の委員長に。

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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