新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃

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ワシントンでは花見ができなかった(写真:REUTERS/Lindsey Wasson)

だが、一部有識者そして政権内では新たな動きも見られる。22日にトランプ氏は、「解決策が問題自体よりも劣ってはならない」とツイート。さらに、24日、フォックスニュースの番組でトランプ氏は、新型コロナの影響で経済活動が事実上停止状態の中、「(4月12日の)イースター(復活祭)までに再開したい」と述べた。大統領は月末まで国民に呼びかけた外出自粛の対策について緩和策を示唆し、再び経済重視の姿勢に転換する可能性がある。

新型コロナの指針が期限を迎える月末までに、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は今後の対策について大統領に助言する予定だが、感染者や死者が増加傾向の中、外出自粛などの継続を提言することが想定される。そこで、トランプ氏が専門家の意に反し、国民に職場復帰を呼びかけた場合、何が起こるか。

連邦制のアメリカは、トランプ氏の支持に従わない州がでてきて、大統領はそれらの州に強引に従わせることはできない。憲法修正第10条では州民の公共福祉の規制、安全確保は州政府が権限を保有するとしている。州政府あるいは市政府など地方自治体の外出自粛や外出禁止の政令を、大統領が撤回することは、憲法違反となりできない。また下院を民主党が握る中、そのような権限を州政府などから大統領に委譲するような新たな法律を、議会が可決することは考えられない。

現在、21州で外出禁止令が出ていて、これらの州民は合計するとアメリカの人口の半数を超える約1億9000万人にものぼる。ニューヨーク、カリフォルニア(ロサンゼルス市、サンフランシスコ市)、イリノイ(シカゴ市)など主要経済都市を抱える州も含まれる。いずれの州も民主党出身の州知事でもあり、大統領の早期緩和策に従わないことが想定され、トランプ氏の願う経済活動の再開の効果は限定的となるであろう。

早期の経済活動再開の可能性とリスク

だが、トランプ大統領が緩和策を打ち出す行為が、人々に何の影響も及ぼさないわけではない。CBSニュース/ユーガブの最新世論調査によると、「新型コロナに関する正しい情報源としてトランプ大統領を信用するか」との問いに対し、90%の共和党支持者が信用すると回答。大統領職という公的地位によって、大統領は共和党を中心に多くの国民の考えにインパクトを与えかねない。また、大統領よりも支持率が低く、大統領の意向の影響を受けやすい大半の共和党出身の政治家も、大統領に追随せざるをえない事態が想定される。

早期緩和策の実行による外出自粛の緩和はリスクを伴う。現状では、感染がさらに拡大し死者がさらに増えることは確実視され、それはアメリカ社会の自殺行為に等しいとも批判されている。

パンデミックの前例として比較される1918年のスペイン風邪では春、秋、冬の3つの波があった。一端、パンデミックが沈静化したと見られても、社会的距離を早期解除した場合、再び感染拡大のリスクがある。現在は多くの国民が大統領のコロナ対策を支持しているが、死者が急増すれば、選挙戦に向けて大統領に対する風当たりは激しさを増し、落選リスクは高まるであろう。

一方、パンデミックが沈静化すれば、民主党と協力して超党派法案を可決することで経済のV字回復あるいはU字回復を実現して、危機をチャンスに変えることができる。大統領選まではまだ7カ月あり、予断を許さない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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