だが、トランプ政権が直面しているコロナ危機は前例がないものであり、危機をチャンスに替えることも不可能ではない。
建国の父アレキサンダー・ハミルトン初代財務長官は、『ザ・フェデラリスト』の論文で立法府(議会)は将来の政策の枠組みを設定し、司法府(連邦裁判所)は過去に実行した政策について評価し、行政府(大統領)は現在起きている事象に対応する役割を担っていると記述している。
国家が危機に直面した際、大統領はリーダーシップを発揮する機会に恵まれているといえる。その機会をうまく捉えて国民を団結させ有権者からの支持を伸ばす大統領がいる一方、その機会を台無しにして、支持を失う大統領もいる。前者が大恐慌から国を再生したフランクリン・ルーズベルト(FDR)大統領、後者が同大統領の前任のフーバー大統領だ。
「ワシントンの沼地をさらう」と訴え、2016年大統領選以降、反エスタブリッシュメントを掲げてきたトランプ氏はこれまでアメリカの政府機関を批判してきた。だが、危機が起きた今、日頃は政府機関に批判的な国民も政府機関が果たす役割に期待を寄せる。トランプ氏はこれまで批判してきた政府機関を巧みに操り対策を打ち出さねばならず、自らのリーダーシップを発揮する極めて重要な局面にある。
コロナ対策で急変したトランプ政権
3月16日の記者会見でトランプ氏は新型コロナをめぐる自らの政権の対応について「10点満点をつける」と語ったが、初期の対応については落第点であったといえよう。コロナの感染がアメリカで拡大し始め、懸念が高まりつつあった年初から約2カ月間、トランプ氏は好調な市場への影響ばかり懸念して、問題を軽視する発言を繰り返し、民主党やメディアが事実に基づかずでっち上げた「フェイクニュース」だとすら話していた。共和党には大統領罷免に失敗した民主党が大統領を追いやるために新型コロナを政治問題化したとの声もあった。
だが、トランプ氏は3月半ば頃から急変した。トランプ氏は危機意識を高め、3月13日に非常事態宣言を行い、18日には国防生産法を発表した。公衆衛生問題の深刻さを把握し、問題を否定することでは切り抜けられず、この問題が再選を阻むリスクを理解したようだ。
3月16日に15日間ほど10人以上の集まりは自粛することを含む行動指針を発表した件について、コロナ対策調整官のデボラ・バークス博士は記者会見で英国の報告書がきっかけで、感染拡大を防ぐために他人との距離を保つ社会的距離を訴求する判断を下したことを説明した。英国の報告書は、ホワイトハウスにも共有されていた英インペリアル・カレッジのコロナ対策チームが発行したものと一致し、同報告書では何も対策を打たない場合は220万人のアメリカ国民が死亡すると分析しているのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら