「経済的な死者」の急増を阻止する対策が必要だ 政府の新型コロナ経済対策はどうあるべきか

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失業者、自殺者を増やさないために必要なことは、いうまでもなく企業の倒産を防ぐことだ。通常の経済対策は、景気悪化によって落ち込んだ需要を喚起することに重点が置かれる。しかし、現在は政府が感染拡大を防ぐために人為的に需要を抑えているという極めて特殊な状況にある。

通常の景気後退期であれば、所得税、消費税の減税や給付金の支給に消費押し上げ効果が期待できる。だが、今回のように消費の場が失われたままでは、こうした政策は意味をなさないだろう。生活必需品に対する支出はある程度増えるかもしれないが、現在需要が急減しているのは外食、旅行、娯楽などの選択的支出であり、問題の解決にはならない。

実は、急速に落ち込んでいる需要を喚起するために特別な経済対策は必要ない。政府が終息宣言をし自粛要請を解除するだけで、経済活動は元の状態に戻る。しかし、現状は感染拡大を防ぐために自粛要請を続けているのだから、その間は需要の拡大をあきらめるしかない。

倒産→失業→自殺の悪循環を断ち切る

足元の景気悪化は、経済的な被害が一部の業界に偏り、かつその被害が極めて大きいことが特徴である。もちろん、経済の停滞が長期化すれば悪影響は全体に及ぶことになるが、現時点では、旅行、宿泊、航空、外食、レジャー関連などの業界が甚大な被害を受けている一方で、悪影響が限定的にとどまっている業界も少なくない。

また、休業や失業で収入が激減した労働者もいれば、公務員やリモートワークが進んでいる会社で働く人のように、収入がそれほど変わらない労働者もいる。したがって、減税や給付金のように広く薄く恩恵が及ぶような政策は適切とはいえず、一点集中型の対策を講じるべきだ。

すでに政府が打ち出している中小企業の資金繰り支援、休業補償、雇用調整助成金の拡充などは一定の効果があると思われるが、現在直面している事態への対応として十分とはいえない。

たとえば、雇用調整助成金は事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、労働者の雇用の維持を図る事業者に対して助成金を支給するものだが、あくまでも事業の継続を前提にしている。新型コロナウィルスの影響を強く受けた企業の多くは事業存続の危機に瀕しており、企業が倒産してしまえばこの制度は意味を持たなくなる。

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